『風、薫る』“シマケン”佐野晶哉が伝えるクリエイターの本質 環の“父親”をめぐる展開に

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第116話では、りん(見上愛)と“シマケン”こと島田健次郎(佐野晶哉)が数年ぶりの再会を果たした。

 前話のラスト、田之上屋で環(瀧七海)と偶然顔を合わせたシマケン。環から美津(水野美紀)が亡くなったことを知らされ、手を合わせるためにりんの家を訪れる。

 無造作だったシマケンの髪は短く切り揃えられており、見た目からして以前とはずいぶん印象が変わっていた。もちろん、変わったのは外見だけではない。現在は、進学した甥・文史朗(蒼井旬)と学校近くの下宿で暮らしながら、郵便配達夫として働いているという。その仕事は思いのほか自分に合っているらしく、「自分でも驚いています」と穏やかに笑うシマケン。りんが「なんだか別の人と話してるみたいです」とこぼすと、「ようやく人並みになれましたから」と答えた。

 かつて、シマケンは小説家を、りんは看護婦を志し、2人はそれぞれの夢を支え合っていた。しかし、シマケンの実家で借金問題が発生し、彼は詳しい事情を告げないまま、りんに別れを告げて浜松へ。その経緯を知る直美(上坂樹里)は、何も言わずに突然戻ってきたシマケンに複雑な思いを抱く。りんは「これでよかったんだよ。私とシマケンさんは」と話しつつも、表情はどこか寂しげだ。

 りんは、自分は何者でもないと悩むシマケンに、「何者でなくたって構いません。私にはただ、いとおしい人です」と伝えたことがある。肩書きや世間的な評価に関係なく、シマケンを大切に思っていたからだ。だからこそ、「ようやく人並みになれた」という彼の言葉は、りんの胸に少し寂しく響いたのではないだろうか。そして、その言葉は、互いの夢を応援し合っていた日々が、すでに遠い過去になったことも感じさせる。シマケンの現在を喜ぶ気持ちと、かつて二人で過ごした時間への懐かしさ。その両方が、りんの寂しげな表情ににじんでいた。

 それでも、シマケンの本質は変わっていなかった。

 仕事へ向かおうとするシマケンを呼び止め、環は自分の描いた絵を見せる。「小林清親のポンチ絵みたいだ」と褒められても、環は「真似っこ」だと返す。するとシマケンは、「クリエイトは必ず真似事から始まる」と語り、「学ぶ」の語源は「まねぶ」なのだとうんちくを披露。その姿に、環も懐かしさを覚える。

 何より印象的なのは、シマケンがごく自然に「環ちゃんは画家を目指してるの?」と尋ねたことだ。環にとって、絵は寂しいときやつまらないときに心を満たしてくれる「ただの好きなこと」。画家として生きていくことなど、考えたこともなかったのだろう。だが、シマケンだけは、その「好き」を将来につながる可能性として捉えた。

 作家と画家は、どちらも何もないところから作品を生み出すクリエイターだ。シマケンは創作の喜びだけでなく、生みの苦しみも、その道で生きていく難しさも知っている。自身は夢を手放し、生活のために働く道を選んだが、その経験をもとに厳しい現実を説くことはしなかった。自分の挫折を環の未来に重ねず、芽生えかけた夢をまっすぐに受け止める。そこには、豊かな知識と言葉で相手の視野を広げてきた、昔と変わらないシマケンがいた。

 環は、そろそろ将来を決めなければならない時期を迎えていた。絵を交えて漢字を教えていたセツ(村上穂乃佳)との会話が将来の仕事に及ぶと、母と同じ看護婦になる可能性を示され、「私にできるかな」と思いを巡らせる。その夜には、派出先でのりんの仕事に興味を示し、見学を提案されるとうれしそうにうなずいた。

 りんの娘である環が、母と同じ看護婦の道に進むと考えるのは自然なこと。環自身も、看護婦になることを嫌がっているわけではなさそうだ。しかし、シマケンから画家という道を示されたことで、それまで「ただの好きなこと」だった絵が、初めて将来の選択肢に変わった。看護婦か、画家か、あるいは別の道か。環はこれから、自分の意思で進む道を選ぶことになる。

 そんな中、恵風看護婦会の事務所に、りんの元夫・亀吉(三浦貴大)が現れる。りんが幼い環を連れ、亀吉との生活から逃れてから十数年。週タイトルどおり、父親代わりだったシマケンや、実の父である亀吉との再会を機に、環をめぐる物語が大きく動き出しそうだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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