『Tシャツが乾くまで』の答えは生方美久脚本にある? 『silent』から続く“名前のない感情”

 『海のはじまり』では、その視点を「親子」「家族」という、すでに名前のある関係へと広げた。突然父親になった夏(目黒蓮)、娘・海(泉谷星奈)、夏との未来を考えていた弥生(有村架純)ら、それぞれの立場から、ひと口に「家族」といっても、その思いやつながり方は一人ひとり異なることを描いた。

 こうして生方は、私たちがうまく言葉にできずにいた感情や関係をすくい上げ、登場人物たちの会話によって輪郭を与えてきた。咲子の「汚したくなくて一番お気に入りの服を着ないより、思いっきりミートソース飛ばしながらおいしいねって一緒にパスタ食べるほうが家族って感じするけどな」という台詞が印象的だ。

 充は咲子を大切に思うからこそ遠ざける。一方、咲子は傷つく可能性まで含めて人生をともにしたい。どちらも相手を大切に思っているのに、「大切にするとはどういうことか」が違う。生方は、一着の服をどう扱うかという日常の会話に、夫婦の価値観の違いを落とし込む。

 咲子と樹生、あるいは充とあずさ。彼らの間にあるものを、私たちはつい「恋愛」や「不倫」という言葉に当てはめて理解したくなる。しかし、咲子たちが自分たちの関係に明確な名前をつけなかったように、既存の言葉に収まらなくても、確かに存在する感情や関係がある。

 そして本作では、そうした感情が、必ずしも共感を前提として描かれているわけではないように思える。充とあずさの関係を「分からない」と感じてもいい。それでも、理解できないから存在しないことにはならない。既存の言葉に収まらず、時には共感することさえ難しい感情を、その割り切れなさごと差し出してみせる。そこに、生方脚本の新たな現在地がある。

 物語はいよいよ終盤へと差しかかっている。咲子が充の前から姿を消し、次回予告では喫茶「ひこうき」に集まった面々へ、充が「みなさんもまだ隠してることあるんじゃないかな」と問いかける姿が映し出された。まだ私たちが知らない秘密が残されているようだ。

 生方はこれまで、異なる価値観を並べながら、「この人が正しい」という一つの答えを用意してこなかった。現在、充とあずさの関係には「分かる」「分からない」という視聴者の反応が入り混じる一方、何も知らされなかった咲子や樹生は、現時点では「傷つけられた側」に見える。しかし、それも私たちが“今知っていること”から見た彼らの姿にすぎない。この先、新たな事実によって、「傷つけた側/傷つけられた側」、「理解できる/できない」という私たちの見方さえ揺さぶられるのかもしれない。

 目まぐるしく表情を変えてきたドラマだからこそ、真実を先回りして考察したくなる。けれど今は、先の展開をあれこれ想像するより、登場人物たちが交わす一つひとつの言葉に、ただ耳を澄ませていたい。

■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs

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