『風、薫る』佐野晶哉と小林虎之介が体現する対照的な生き様 “夢”と“出世”の行く末
「外国との戦争はみんな初めてだ。やったことない仕事をした者は重宝がられるのはりんもよく知ってるだろ。人ができないこと、知らないことをすればその分、上にあがることができる」
虎太郎の生き方は、出世してお金持ちになりたいという欲望に支えられている。これは国の力を大きくする戦争という行為と親和性がある。
戦争がはじまった途端、夢ばかり見ているシマケンが消えた。彼が小説連載をとって代わられた人物が、商船会社の親族であることも示唆的に思える。商船会社は外国との戦時には重要だからだ。シマケンも我欲の塊と自分を卑下していたが、彼の我欲は極めて狭い世界のなかでのものだ。虎太郎とシマケン。ふたりは単なるりんをめぐる恋模様を彩る要員ではなく、時代の象徴のようにも見える。
ここで気になるのは、シマケンが去って2年、虎太郎はりんを諦めたのか、それとも再びアプローチを試みたのだろうか。相変わらずりんとの距離を縮められないままでいるようだが……。恋愛ものに当て馬キャラが不可欠なのはわかる。それにしても虎太郎の存在が曖昧すぎないだろうか。彼が戦場で命を落とすような展開だけはやめてほしい。『キャンディ♡キャンディ』(講談社)のステアみたいにならないでほしいと祈るばかりである。誰かと結婚してふつうに幸せになってほしい。例えば、多江(生田絵梨花)はどうだろう。
その多江は、広島の陸軍の病院に特志看護婦として赴任することになった。直美の夫・吾郎(甲斐翔真)は軍人で、最も戦争に近い。りんと直美の周辺がにわかにざわついてくる。
最後に、直美が無料看護をすることになった平蔵(太田光)について触れたい。彼は戊辰戦争を体験している。
「俺は体壊して稼げないから貧乏だ。病気しているから体も弱い。だが、弱い人間じゃないと思ってる。こんな場所で生きていけるんだから案外強いんじゃないかってね」「生き残るんだったら、手柄なんか立てようとせず、じっとしてることが一番だ。死んじまったら意味もねえ」
なんてことを言う平蔵。この弱さを肯定するたくましさや、生き残ることを重視した考え方は、弱いと否定されてしまったシマケンのような存在の救いである。また、ひたすら上へ上へと望む虎太郎への問題提起でもあるのではないか。
さて、まったくの余談だが、第21週で、主人公たちの看護婦養成学校の同期・しのぶ(木越明)が妊娠して恵風看護婦会をやめることになった。彼女が意外と働いていたと気づく主人公たち。看護会の事務所の風景からもしのぶの存在が感じられた。しのぶがいた間は、直美の背後の飾り棚には大ぶりで華やかな花が生けてあったが、しのぶが辞めてからは花が質素になっているのだ。しのぶは口が悪いが手はしっかり動かす人物であることが、セリフや美術から感じられる。そういうところも楽しみたい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK