『Tシャツが乾くまで』安定と安心の境界線 他人だから見えた“充”松山ケンイチの真実

他人だったから話せた。話したから、他人ではいられなくなった

 けれど、毎月第3金曜日に会い、お互いの話を聞くうちに、二人は少しずつ「自分の人生には関係のない人」ではいられなくなっていく。自分の話を、解決しようとも、わかったふりをしようともせず、ただ聞いてくれる人。嫌われてもいい。いつ関係が切れてもいい。最初はそう思える相手だったからこそ話せたはずなのに、気づけば失いたくない人になっていく。

 どこかでお互いに「ようやく見つけた」という感覚に近かったのかもしれない。でも、話を聞いていけば他人ではいられなくなる。この人がこれからどんな人生を歩むのか、もう少し見ていたい。見届けたい。そんな気持ちが湧いて、あずさが充についてバスに乗ったのではないだろうか。

 ここまで考えると、充があのタイミングで逃げたことにも別の見方が生まれる。あずさが充の疎遠だった親に会うバスにまで乗り込むと、それはもはや彼女が「自分の人生には関係のない人」ではなくなったとも言える。コインランドリーはモヤモヤを洗ってその場限りの場所。でも、このバスはそうではない。行き先は、充の過去や家族、人生の内側へと向かっていく。そんな窮屈さが急激に充を襲ったとしても、不思議ではない。降りられるチャンスは、サービスエリアしかない。そうして、逃げずにいられなかったのではないだろうか――。

「似ている」としても、「同じ」ではない

 このドラマでは、似た境遇に置かれた人たちが何度も近づいていく。事故のあと、咲子と樹生は「パートナーを失う」という状況でつながった。二人とも、大切な人が突然いなくなり、その人について自分の知らなかったことを突きつけられる。けれど、もちろん二人の「喪失」は同じではなかった。失おうとしている相手も、築いてきた関係も違う。

 そして充と咲子も「親との関係に難しさを抱えている」という点では似ているように思えた。充とあずさも「親から得られなかったものがある」という点では近いように見える。でも、似ていることと同じであることは違う。そうして何度も近づけながら、そのたびに「それでもあなたと私は違う」と差し戻してくる。

 だからこそ、誰かを理解するということは、自分と同じところを見つけることだけではないのだと思う。人を大切にすることと、その人のすべてを理解し、自分ごととして解決しようとするのはまた別のことなのかもしれない。

 それでも「パートナーなのだから、すべて話すべきだった」と感じる人もいるだろう。一方で、「誰にでも話せないことくらいある」と思う人も。このドラマは、そこに簡単な答えを置かない。その曖昧さこそが、視聴者それぞれの人間関係の感覚を浮かび上がらせていく。

 『Tシャツが乾くまで』というタイトルは、毎月第3金曜日、衣類の乾燥が終わるまで充とあずさが言葉を交わしていた時間を示しているのだと感じた。けれど今は、それだけではないようにも思える。なかなか受け止めがたい事実に対面したとき、相手をもう一度どう見るのか。これまでと同じ関係に戻るのか。それとも、新しい関係をつくっていくのか。その答えが出るまでには時間がかかる。

 それは登場人物たちだけではない。私たち視聴者もまた、この物語によって自分の中にあった「人との距離」や「わかり合うこと」への感覚を揺さぶられている。その居心地の悪さごと抱えながら、自分の中に生まれた問いが乾くまで、この物語に付き合っていく。そこに、『Tシャツが乾くまで』というドラマの実験的な面白さがある。

■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs

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