佐野晶哉は“放っておけない”役がよく似合う 『風、薫る』シマケンに滲む“愛され力”
NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、ここにきてますます目が離せなくなっているのが、佐野晶哉演じる“シマケン”こと島田健次郎だ。
第98話では、りん(見上愛)に思いを寄せる横沢(井上祐貴)が東京までやってきて、「必ず幸せにします」と結婚を申し込んだ。そんなこととは知らずに、野花を手に一ノ瀬家を訪れたシマケンは、横沢からその事実を聞かされて言葉を失う。そして第99話では、雨の中で再び横沢と対峙。自分ならりんを幸せにできると言い切られると、ついに「他の誰かといるのも嫌なんです!」と本音をさらけ出した。
これまでのシマケンを見てきた視聴者にとっては、驚くほど率直な本音だったのではないか。新しく生まれた言葉や外国語について聞かれれば饒舌になるのに、自分の気持ちとなると途端に何も言えなくなる。物語序盤にりんが日曜日しか外出できないと知ると「それは残念……」と漏らしながら、慌てて「人として残念」と言い直した頃から、その不器用さは一貫している。
それでも、りんとの時間を重ねるなかで、シマケンなりに少しずつ思いを表すようになっていった。看護に向き合えず苦しむりんに対して、無理に笑顔を作っているのではないかと気づいて、面を取ってほしいと伝え、新潟の海辺では、りんと過ごす時間を噛み締めるように「愛おしいです」と告げる。自分の気持ちを伝えることは苦手でも、りんの変化には誰よりも敏感に気づいてきたのがシマケンだ。
そんな佐野は、Aぇ! groupのメンバーとして活動する一方、近年は俳優としても着実に存在感を高めている。
大きな転機の一つとなったのが、2024年公開の映画『明日を綴る写真館』だろう。平泉成演じる昔ながらの写真館の主人・鮫島と出会い、自分に足りなかったものに気づいていく若手カメラマン・太一役で映画初主演を務めた。太一は華々しい実績を持ち、自分の腕にも自信を持っている一方で、鮫島との交流を通して写真に向き合う姿勢を見つめ直していく人物だ。印象的だったのは、佐野が自分だけで感情を完結させないことだった。鮫島の言葉を聞き、その姿を見ることで太一の表情が少しずつ変わっていく。平泉の芝居を真正面から受け止めながら、若者の戸惑いや悔しさ、そして敬意へと変わっていく感情を見せていた。
『Dr.アシュラ』(フジテレビ系)の保も、佐野の持ち味がよく生きた役だった。救命の現場に入ったばかりの研修医で、松本若菜演じる朱羅の圧倒的な行動力についていくので精いっぱい。最初から頼れる医師ではなく、戸惑い、失敗しながら患者と向き合っていく人物だった。佐野は、どこか頼りなく、不器用な人物を演じると本当に魅力的だ。情けないところも格好悪いところもあるのに、なぜか憎めない。保もシマケンも、時には「もっとしっかりしてくれ」と言いたくなるが、それも含めて愛らしく、いつの間にかその成長を応援したくなっている。
映画『か「」く「」し「」ご「」と「』では、また違った顔を見せた。演じた高崎は、クラスの中心にいる明るい人気者。一見すると佐野の明るいイメージにも近い役柄だが、実は周囲に見せない複雑な思いを抱えている。佐野はその明るさの奥にある揺れを丁寧に表現していた。そして6月に公開された映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』では、6つ子の三男・チョロ松役に。Aぇ! groupのメンバーらと繰り広げるテンポのいい掛け合いはもちろん、“推し”を前にしたときの高揚感まで振り切って表現し、コメディでも確かな存在感を残した。
こうして近作を振り返ると、佐野は相手とのやりとりの中で、役の魅力を引き出していく俳優なのだと思う。言葉を受けた瞬間の表情や、気持ちをうまく返せずに戸惑う姿にも、その人物ならではの感情がしっかりと乗っかってくる。だからこそ、どこか頼りなかったり、弱さを抱えていたりする役ほど気づけば目で追いたくなってしまう。
シマケンは、長い時間をかけて変化していく人物だからこそ、佐野の持ち味がよく表れている役でもある。格好悪さや可笑しさ、不器用さまで隠さずに見せることで、どこか放っておけない人物にしてしまう。りんから「待ちます!」という言葉を受け取ったシマケンが、これからどんな一歩を踏み出していくのか。そして『風、薫る』の先で、俳優・佐野晶哉がどんな役を演じていくのか。近作で着実に芝居の幅を広げてきただけに、今後の活躍も楽しみだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK