『しあわせは食べて寝て待て』が今も心に残る理由 1年ぶりのSPで味わいたい“優しい時間”

 だからこそ、鈴の「果報は寝て待て」という言葉が響く。ただし、本作が教えてくれるのは、待つことの大切さだけではない。鈴が「運が巡ってくるときのために、少しでも元気になっていないとね」と言うように、向こうからやってきた幸せをきちんと受け取れるよう、心と身体を健やかに保っておく必要がある。

 その心と身体を支えるものとして描かれるのが、薬膳と団地での人とのつながりだ。本作に登場する薬膳は、決して病気を治す魔法のようなものではない。旬の食材を取り入れ、その日の体調に合わせて食べるものを選ぶことで、自分の身体を少しずつ労わっていく。まさに「丁寧な暮らし」という感じだが、筆者が本作の好きなところは、その裏側まで惜しみなく見せてくれるところだ。さとこが358円のとうもろこしに「高っ……」と驚いたり、コメ不足と価格の高騰で途方に暮れたりと、私たちと地続きの生活感が随所に滲む。でも、そんな時には大抵、ご近所さんからお裾分けが届くのだ。現実の厳しさをしっかり描きながら、そこに小さな救いを忍ばせることで、必要以上に息苦しくさせない。その塩梅が絶妙な作品だった。

 人と人との距離感もまた、ちょうどいい。鈴や司をはじめ、団地の住人たちは、困っていれば手を差し伸べるけれど、必要以上に相手の事情に踏み込もうとはしない。一緒に食卓を囲んだり、食べ物をお裾分けしたり、ときにはただ話を聞いたり。誰かの善意に甘えきるのではなく、助けてもらった分は自分にできる形で返していく。互いに無理をせず、けれど孤独にもならない。そんな緩やかなつながりが、さとこの心を支えていた。「心と身体はつながっているのだと、病気になって身をもって知った」というセリフがあるように、薬膳で身体を労わることも、人とのつながりで心を養うことも、両方大事なのだ。

 今回放送される『しあわせは食べて寝て待て~早春の養生編~』は、本編の第6話と第7話の間に起きた出来事を描く特別編となる。パート先の唐社長(福士誠治)から聞いた地方移住に憧れを抱くも、体調を鑑みて断念したさとこ。その時、彼女が呟いた「何かに挑戦できる自分でありたかった」という言葉が、今も切なく胸に残っている。最短ルートで答えにたどり着くことが求められがちな今、本作はその真逆をいくドラマだ。人生は、いつだって思い描いた通りに進むとは限らないし、幸せの形もすぐには見つからない。だから、慌てるのではなく、今の自分にできることをしながら、ゆっくりと果報を待つ。本作を観ていると、そんな生き方も悪くないと思えてくる。きっと今回も、日々を急ぎすぎている私たちの心を、そっと緩めてくれるはずだ。

■放送情報
特集ドラマ『しあわせは食べて寝て待て~早春の養生編~』
NHK総合にて、8月18日(火)22:00~23:12放送
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、西山潤、土居志央梨、加賀まりこ、大西利空、徳永えり、根岸季衣ほか
原作:水凪トリ
脚本:澤井香織
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、石澤かおる(NHK)
写真提供=NHK

ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』(全9話)イッキ見3夜連続再放送
8月12日(水)23:50~26:05放送(第1話~第3話)
8月13日(木)24:50~27:05放送(第4話~第6話)
8月14日(金)24:45~27:00放送(第7話~第9話)
※NHK ONEで同時・見逃し配信

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