“シマケン”佐野晶哉の「いとおしい」は告白だったのか 『風、薫る』屈指の名シーンを分析
第18週「岐路にて」(演出:新田真三)はサブタイトル通り、りん(見上愛)も直美(上坂樹里)も岐路に立つことになる。
とくに顕著なのが直美。病院を辞めて派出看護の会を立ち上げて活動をはじめる。髪がさらに短くなって大人っぽくなった。りんのほうはまだ兆し、という印象だが、新潟で帝都医大の黒川(平埜生成)と再会し(実家の大病院を継ぐことになった)、看護婦取締として働かないかと声をかけられ、心を揺らす。さらに、新聞記者・横沢(井上祐貴)にいきなり求婚され、「いとしげ」という言葉を使うシマケン(佐野晶哉)との間でも揺れているようだ。直美はやりたいことが見えているが、りんのほうは迷走しているように見える。ふたりのそれぞれの岐路について順に考えていこう。すると、もうひとつの岐路を発見した。それはこの稿の最後に記す。
まず、直美。これまでの経験から、貧しさのため病院で診てもらえない人のための訪問看護を行うことを決意した直美はたくさんの人達の協力を仰ぎ、邁進していく。常に弱者の側に立つ理念にも賛同できるし行動力があって見ていて気持ちいい。
派出看護の話を聞いた捨松(多部未華子)は「直美さんがやることは、たった小さな歩みでも新しい女の生き方につながります」と、権力者の妻という立場に頼る捨松よりも、直美のやっていることの意義深さを讃える。
派出看護の計画を聞いた院長(筒井道隆)は大学病院は医学の研究、発展のための病院だが、貧しさゆえ散る命を救う者もいなければならない。「どちらの医も仁術なり」と言って直美を快く送り出す。
誰もが直美のやっていることを高く評価する。ただ、手伝ってくれたしのぶ(木越明)が看護先でやらかして(女中扱いされてキレる)、前途多難ではあるのだが……。
さて、りん。彼女は看護の道からいったん離脱し、新潟の女子寮で舎監として働いている。あるとき、女子生徒が体調を崩し、りんは久しぶりに看護のようなことをする。
熱も腹痛もあり、伝染病の危険もあるので生徒を隔離し、手ぬぐいでマスクをして感染対策し、きびきびと立ち働く。脈をとるときも手が震えなかった。往診に来た黒川に、看護がまたできるようになったと思われるが、今回は患者ではなく家族と思い込むようにしたらうまくやれただけであり、誰にでも対応できるかはわからないと、りんは自信なさげだ。
それでも、看護を学び実践してきた日々の蓄積が彼女の体と心に確かに息づいている。ちょうど、直美は派出看護に援軍を必要としている。ふたりが呼応し、再び共闘する日が待ち遠しくなる劇作だ。
『風、薫る』が全10回くらいの連ドラや、2時間くらいのスペシャルドラマや映画だったら、ここだけにフォーカスして話が進められるのだろうけれど、朝ドラは長い。あと2カ月ある。1週間で1時間半だから、2カ月だと8週間。12時間もある。大長編だ。だから、いろいろなエピソードが必要になる。そこで、りんと横沢、りんとシマケンの関わりがフォーカスされる。
シマケンはりんに好意を抱いているが、りんは離縁してシングルマザーの身ゆえ、恋愛に気持ちが回らない。シマケンに励まされ、かけがえない友人として離れても文通をしているが、それ以上には進展しない。そんなときに横沢が現れ、ぐいぐい距離を縮めてくる。突然、結婚を申し込んできてりんはびっくり。ただ、「しません」と速攻、拒否した。横沢もどこまで本気なのかはわからない。多少、ノリでやっているような印象もある。
冷めた目で見れば、横沢はおそらくいわゆるかませ犬的なポジションであろう。彼がプロポーズしたことがたちまち直美を介してシマケンに伝わり、シマケンは新潟にやって来る。