『Tシャツが乾くまで』思いやりが生んだ“思い込み” “咲子”蒼井優が長野へ向かった理由

「乾きが悪くなったらフィルターの掃除してね」

 それは、行方不明になった充(松山ケンイチ)から届いた短い手紙だった。洗濯機のイラストと、乾燥フィルターの場所を示す「←ここ」の文字。そして、先の一文だけが書かれていた。他人から見れば、なんのことかと首をかしげずにはいられないもの。姿をくらませて、洗濯物の話をしている場合かと、呆れる人もいるかもしれない。だが、妻である咲子(蒼井優)には、綴られた言葉以上の思いを受け取ることができる。

「この手紙は、“自分は元気だよ”って意味と、“もう帰らないからね”って意味です。“洗濯物、さっちゃんひとりでなんとかしてね”ってことだから」

 金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)第4話は、もう帰ってこないパートナーに対する気持ちの行き場を模索する咲子と樹生(中島歩)の姿が描かれた。なかでも、象徴的に語られたのが「苦手なもの」についてだ。

 咲子は花火大会が、樹生は水族館が苦手だと、夫の充、妻のあずさ(夏帆)は知っていた。だからこそ、充とあずさがそれぞれペアチケットを持っていたことに驚きを隠せない。そのチケットは、明らかに自分以外の誰かと行く意思を示すものだったから。

 咲子と樹生がお互いに、なぜその場所が苦手になったのかを打ち明け合う。その姿を観ながら、「好きなもの」と「苦手なもの」を共有するのは、同じ情報交換に思えて、全然違うのだと気付かされた。

 「好きなもの」について話すとき、人は比較的無防備でいられる。もちろん、そこにもその人なりの理由や思い出はあるけれど、好きだという気持ちは直感的で、聞く側もまた感覚的に受け止めることができる。

 一方で、「苦手なもの」について話すことは、その人の過去や傷に触れることでもある。そう感じるようになった背景には、身体的、あるいは精神的につらい経験があるかもしれない。だからこそ、本人でさえうかつには触れられないものでもある。それを誰かに話すことにも、受け取ることにも、慎重さが求められるのだ。

 聞いた側としても、「これが好きだって聞いたから買ってきた」「ここが好きだと言うから連れてきた」といったように、「好き」は“喜ばせたい”というわかりやすくポジティブなアクションにつながる。

 対して、「苦手」はむしろ、“思い出させない”ように配慮するという、わかりにくい形での寄り添いが必要になる。愛する家族を亡くした人に「かわいそうに」と声をかけることも、話す側としては寄り添いたかったのかもしれない。しかし、当の本人にとっては、それを思い出させられ、悲しみを外側から決められてしまう苦しみになることもある。

 きっと充もあずさも、咲子や樹生の前で苦手な花火大会や水族館を話題にすら出さなかったのだろう。咲子が「いつの間にか直っていた」と思うほど、こっそりと乾燥フィルターを掃除していたように。相手が不快に思うものを、相手が思い出す前に取り除く。そんな地味な配慮が、2組の夫婦の間に感じられた愛なのだ。

 だが、避ける理由は「苦手」だけではないということもある。咲子がひとりで向かった水族館で、樹生の息子・翔(久保田薫)へお土産を買おうとしたときのこと。電話口で何がいいかと問う咲子に、樹生は「サメのぬいぐるみ以外」と答えた。それは、先に翔が樹生の母と水族館へ行ったときに、サメのぬいぐるみを買ってもらっていたから。

 樹生の言葉に、咲子はすぐさま翔がサメを「苦手」なのだと認識した。避けるのは、サメが怖いからだと。咲子はきっと今後も翔にサメの話を聞くこともないだろう。サメが好きだからこそ、すでに持っているということを知らないままに。

 相手を思いやることと、相手を理解することは、決して同じではない。むしろ、思いやりが深いからこそ、一度得た理解を疑わなくなることもあるのかもしれない。そんな翔とサメについてのすれ違いを正さない樹生と、そうなのだと思い込んでいく咲子に、フィナンシェのことを思い出した。

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