『エリーゼ:シャドーズ・オブ・ウーマン』 ネトフリオリジナルに迷ったらとりあえずコレ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、サブスクで観たい作品を選んでいる時間が苦手な徳田が『エリーゼ:シャドーズ・オブ・ウーマン』をプッシュします。

『エリーゼ:シャドーズ・オブ・ウーマン』

 Netflixにはいまや、一生をかけても見きれないほどの作品が並んでいる。ランキングに表示されるような作品はすでにどこかで話題になっているものがほとんどだが、時にはそこで初めて目についたものから思わぬ事実を知らされることもある。

 7月22日から配信されている『エリーゼ:シャドーズ・オブ・ウーマン』はその一つだ。妻にバラバラ死体にされた夫の実話を描いたもので、被害者は日系人のマルコス・マツナガとのことだった。原因は「痴情のもつれ」とはいえ、死体は7つにバラされていたということで、当時事件の現場となったサンパウロはもちろんブラジル全土を震撼させたという。

 本作はこの事件をもとに作られた実録ドラマだ(同事件にまつわるドキュメンタリー『エリーゼ・マツナガ:殺人犯が抱える心の闇』も2021年から配信されている)。

 冒頭、マルコスの死体を妻・エリーゼが解体する場面から映画は始まる。自ら夫を手にかけたわりにはやけに冷静である。というのも彼女は生前のマルコスに連れられて狩りに出かけることがあり、「死体」を扱うことにはある程度慣れていたようだ。夫婦のことをGoogle検索にかければ、すぐ上のほうに鹿の死体と嬉しそうに並ぶ2人の写真を確認できる。

 冒頭の解体シークエンスが終わると、この狩りをはじめとして2人は生前どんな思い出を作り、そしてどんな確執を抱えるようになっていったのかが回想されていく。ノンフィクションとは知っていても、よくできたクライムサスペンスのような雰囲気を感じ取れる。

 といっても、夫婦喧嘩の末に衝動的になされた殺人事件であるから、凝ったトリックや常人離れした動機があるわけではない。大仰な照明の使い方でうっかりドキドキしてしまいそうになるが、映像作品として何か優れた画面構成があるわけでもない。

 いちいち発話人物に律儀にピントが合わせられていく画面は、視聴者にはとても親切だ。ぼやけている背景は、もはやモザイクかと思えるほどにぼかされており、物語の本筋と俳優のリアクションだけで占められる空間構成はショートドラマの視聴体験と似ていて非常に「現代的」である。90分かけるほどの情報量が本作にあるとは到底思えないが、このような画面で激昂する夫婦の様子を延々と見せ続けられていると、なにやら切実なものを感じてしまってくる。

 というより、間延びしか存在しないといっても過言ではないような物語構成であるがゆえに、結末に訪れる射殺の衝動性はかえって際立っているのかもしれない。この殺人が完遂するまで、「起伏」と呼びうるようなものは本当にない(強いていえば、エリーゼの父との確執に、物語を成立させるための思考の痕跡が認められなくはない)。富豪に買われた売春婦が「真実」の愛を手に入れやがて夫婦となるが、夫の買春癖は治らず喧嘩が絶えない。妊娠を機に夫は心を入れ替えたというが、やはり隠れていろいろな女と出会っており、ある日ついに妻は我慢の限界を迎える。口論の末、手に持っていたハンドガンで夫を射殺してしまう。

 後処理も極めて杜撰だ(それはそうだろう)。力任せに夫を7つに切り分け(慣れた手つきだ)、ゴミ袋に包まれた夫をスーツケースで運び、廃棄する。防犯カメラは複数のスーツケースを重そうに運ぶ妻を捉えており、夫が最後にカメラに映ったのは帰宅の直前である。
犯行当時、別の階にいた家政婦に買い物に出かけるよう指示し、妻は血まみれの手で我が子を抱きしめる。

 映像作品としてかろうじて設定されたこのカタルシスは、さしたる教訓を視聴者に与えない。

 しかし、実際にこの殺人が衝動的になされたものであるならば、結末はあっけないものであって然るべきだろう。この殺人に計画性がなかったならば、この物語が「起伏」に富んでいたら不自然だろう。

 おあつらえ向きの実在する猟奇事件。企画自体に漫然さを感じてしまうサブスクオリジナル作品としての映像化。両者が揃うと、煮え切らないけれども独自の視聴体験を得ることができる。

■配信情報
『エリーゼ:シャドーズ・オブ・ウーマン』
Netflixにて配信中
監督:フェリペ・ヴェリャス
出演:ロレーナ・コンパラート、 エンヒケ・キムラ、 ドニーズ・ワインベルク、 グスタヴォ・ファルカォ、 ジュリア・シムラ、 フローラ・サンディア、 エドソン・カメダ、 ミワ・ヤナギザワ、 アルトゥール・トヨシマ、 ジュリア・コンハド、 エリカ・モンタニェイロ、 マラト・デスカルテス、 ルシアーノ・キリノ
脚本:ラファエル・モンテス、 マリアナ・トレス

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