『君の好きは無敵』が問いかける“かわいい”の本質 “瀬尾”佐野勇斗が貫いた信念

 さらに瀬尾はキャラクターデザイナーとして絶対にやってはいけないことをやってしまった。杏奈がパン屋の創業50周年を記念したオリジナルキャラクター作りの依頼も受けていたのだが、敵討ちに燃えるがゆえに何度催促しても一向に取りかかろうとしなかった瀬尾。当然、締め切りには間に合わず、先方の信用を失い、契約解除に。楽しみにしてくれていたパン屋の店主や常連の子供たちをがっかりさせてしまった。

 そのことを最初は重く受け止めていなかった瀬尾だが、「誰かにとって一生涯の好きに出会えるかもしれない機会を奪ったんです」という杏奈の言葉で気づいたのではないだろうか。自分は、あんなに憎んでいた大三島と同じことをしてしまったことに。大三島が目指していたのは「ビジネスの成功」、瀬尾が目指していたのは「敵討ち」という違いはあれど、どちらもキャラクターを自分の目的を果たすための手段として扱っている。そこにキャラクターへの愛情や、誰かを喜ばせたいという気持ちがあるとは到底言えない。

 そして今回の失敗は、杏奈が瀬尾と信頼関係を構築できていなかったことにも一つ原因がある。実はかつて大三島は杏奈のクライアントだったのだが、杏奈はそのことをあえて瀬尾に話していなかった。しかし、ただでさえ大三島との一件で人を信用できなくなっている瀬尾は自力でその情報を手に入れ、2人が裏で繋がっていると勘違いしてしまったのだ。ゆえに瀬尾は杏奈の意見に耳を傾けようとせず、結果的に自ら失敗への道を突き進んでしまった。

 杏奈と大三島はどちらも優れたビジネス感覚を持っているため、かつては共感し合える良きパートナーだったのではないだろうか。だけど、成果よりも「好き」や「かわいい」といった思いを大事にする瀬尾に出会ったことで、杏奈は自分の考えが必ずしも正しいわけではないことを知った。一方で成果重視の価値観が間違っているわけでもなく、ビジネスにおいては成果を優先すべき瞬間もあるのだろう。だけど、大三島のように自分の価値観で他人の思いを踏みつけていいはずがない。

 「かわいい」も同じ。世間では「そういうの、フッ」と毒舌を放つシニカルモルコが大人気で、その冷笑的な態度は時代にも合っているのかもしれない。けれど、幼い頃の瀬尾のように、「ベリーグッド」とただ肯定してくれるベリーグッドベリーに救われる人もいる。何を「かわいい」と感じるかは人それぞれで、そこに本来優劣などなく、共存し得るはずだ。

 だから、瀬尾は「どちらが先に新たなスターキャラを生み出せるか」という大三島の勝負に乗らなかった。一度は復讐に取り憑かれて見失った自分の信じる「かわいい」に立ち戻った瀬尾の「かわいいには勝負をさせない」は、本作を貫く名台詞になるのではないか。その一言からコンセプトが固まり、いよいよ杏奈と瀬尾のキャラクター作りが本格的にスタートするが、気になるのは大三島の今後の出方。杏奈の“討ち入り”で瀬尾との信頼関係は以前よりも深まったが、大三島には完全に目の敵にされたような気がする。彼が本気を出したら業界から追放されかねない杏奈と瀬尾の行く末が心配だ。

■放送情報
火曜ドラマ『君の好きは無敵』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:松本若菜、佐野勇斗、小野花梨、金田哲(はんにゃ.)、中村隼人、白本彩奈、島崎和歌子、藤井隆
声の出演:あの(シニカルモルコ役)
脚本:宮本武史
演出:竹村謙太郎、府川亮介、渡部篤史、尾本克宏ほか
主題歌:星野源
プロデューサー:岩崎愛奈
協力プロデューサー:小髙夏実
編成:吉藤芽衣
取材協力:株式会社サンリオ
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kiminosukihamuteki_tbs/
公式X(旧Twitter):@kiminosuki_tbs

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