内田慈、『風、薫る』上坂樹里との掛け合いで見せる“儚さ” 『silent』『まれ』と共通点?

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』の第16週「新風吹くころ」は物語の大きなターニングポイントとなった。これまでともに看護婦を目指して歩んできたりん(見上愛)と直美(上坂樹里)が、互いの絆を再確認しながらも、別々の場所で次なる道を進んでいく。

 りんが女学校の寮の舎監として勤務するために新潟へと旅立った頃、直美は引き続き帝都医大病院で看護婦取締として働いていた。新たな環境で新聞記者の横沢(井上祐貴)たちと興味深い出会いをしているりんの動向も気になるところだが、東京にいる直美にも思わぬ風が吹いている。

 きっかけは瑞穂屋で働く店員の文(内田慈)が体調を崩してしまったこと。文といえば第11話で初登場し、東京へやってきたばかりのりんにも優しく接し、彼女が店員として働くようになった際には、慣れない接客に戸惑うところをサポートしていた。りんが瑞穂屋を辞めたあとも交流は続き、母親の美津(水野美紀)が代わりに働くようになったことから、一ノ瀬家とは長い付き合いになっている。腹痛で倒れてからは、率先して看病を行う直美ともよく話すようになっていた。

 しかし、直美が文を看病しているとき、自身が大切に持っていたお守りの袋と同じ柄の生地の髪飾りを見つけてしまう。母親のお手製であるお守りの袋。直美もずっと探し求めていた実の母親と思しき女性が、こんなにも近くにいたとは想像もしていなかっただろう。横浜の教会に捨てられたことを直美が話してからは、文も本心を悟らせないように言葉を選びながらも、どこかで直美の存在を意識しているのが伝わってきた。文を演じる内田慈の繊細な芝居が、直美と対峙する場の緊張と緩和を絶妙な塩梅で作り出している。

 不思議な雰囲気を醸し出すキャラクターだとは感じていたが、ここにきて物語の重要な役割を託されていたことが判明するとは思いもよらなかった。内田は『silent』(2022年/フジテレビ系)でも川口春奈演じる青羽紬の同僚役を演じていたが、思い悩む主人公を陰ながら支え、慕われるお姉さん的な立場がよく似合う。

 内田の朝ドラへの出演は、NHK連続テレビ小説『まれ』(2015年度前期)に続いて2度目。ケーキ職人の道に進むのを諦めて、輪島市役所の産業振興課に勤めることになった津村希(土屋太鳳)が最初に相対することになったシタール奏者の京極ミズハを演じた。移住してきた直後は、コンサートを開催するために希に無理難題をふっかけるが、彼女のまっすぐな思いと行動力に触れ、最終的には感謝を伝える。艶やかでどこか掴みどころのない雰囲気は、文にも共通する部分だろう。

 内田は松尾スズキの舞台を観たことがきっかけで役者を志し、演劇を中心に活躍を続けたのち、2010年代からは映像作品へもたびたび出演。映画『ピンカートンに会いにいく』(2018年)では単独初主演を果たし、所属していたアイドルを解散したあとも売れない女優を続けていた主人公・神崎優子の悲哀や滑稽さを、テンポのいい会話劇のなかで見事に表出させた。

 2026年もドラマを中心に多くの作品で存在感を発揮。2024年にNHKで放送された『お別れホスピタル』の続編となる『お別れホスピタル2』では、ステージ3と宣告された咽頭がんから復帰した看護主任・赤根の苦悩と葛藤を地続きで表現する。『田鎖ブラザーズ』(TBS系)では検視官の弟・田鎖稔(染谷将太)とバディを組む検視官補助の桐谷千佳を演じ、復讐と後悔が渦巻く物語に明るい光を灯した。

 さらに、タイムスリップした過去で出会うはずのなかった殺人犯と遭遇するオリジナルサスペンス『君が死刑になる前に』(読売テレビ・日本テレビ系)では、物語が進んでいくなかで大きく印象が変化する難しい役柄を見事に務めきった姿が印象深い。彼女が演じたのは津木川町にあるカフェ「カルムス」の店主である長嶺洋子。人当たりもよく、娘の凪音(伊礼姫奈)とともに主人公の琥太郎(加藤清史郎)や隼人(鈴木仁)を温かく出迎える。しかし、津木川町で起こる殺人事件の謎が紐解かれていくなかで、次第に彼女が抱えていた秘密が明らかになる。娘の凪音に対する愛情をたしかに感じさせつつも、琥太郎たちには彼女の過去を隠したまま、遠ざけるようにしていた洋子。すべての謎が明らかになる最終話での内田の芝居は圧巻だった。

 文が実の母親である可能性に気づいた直美と文の対話は、第17週「脈動」の大きな見どころとなるはずだ。明治元年の横浜で卯三郎(坂東彌十郎)に詐欺を持ちかけたことが、瑞穂屋で働くきっかけとなった文。卯三郎と出会うまで、彼女はどのような時間を過ごしていたのか。そして、文の直美に対する複雑な感情を内田がどのように表現するのか。心して見届けたい。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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