『エージェント・キム』は“韓国王道ノワール”の新基軸 かつてないアクションの作り込み
筆者が観ていて唸らされたのは、アクションシーンの作り込みだった。特にエピソード3における、ミンジのスマホの位置情報を頼りに少年少女の溜まり場となっている廃ホテルへ潜入するシークエンスである。大広間にいた大勢の不良たちに絡まれたキム部長とハンスは、まずキム部長が「お前らの頭は誰だ」と問いただし、挑発に乗った一人を痛めつけたうえで、リーダーのいる部屋まで強制的に案内させる。他の雑多な子分たちは、テコンドーの元オリンピック代表選手であるハンスがなぎ倒すという流れだ。
つまり、キム部長の移動とハンスの格闘というアクションが2カ所で行われている。この場合、カットを割りながらそれぞれの姿を見せるケースが多いのだが、本作は2階のバルコニー式の廊下を不良の髪を引きずりながら歩いていくキム部長と、1階の大広間で闘うハンスのアクションを、吹き抜けの空間を使いひとつの画面に収めている。そもそもアクションには手慣れているソ・ジソブを起用しているので迫力は保証付きではあるものの、韓国ドラマファン、ノワールファンにとってアクションがつるべ打ちのように乱発するのは見飽きているところもある。またこのドラマのメインヒーローはキム部長だけではない。ハンスとジンチョルという、盟友であり、同じく平凡な中年の父親となった2人が機敏であったり豪快だったりするアクションを繰り出し悪に立ち向かうという、豊富なキャラクターたちによるチームプレイの妙味も見どころである。ハンスのアクションも作りながらキム部長の見せ場も演出し、ストーリーへの没入度も妨げない、新鮮で見事な場面設計だった。
さて、ひたむきに王道ノワールを追求しながら新基軸のアクションも取り入れてヒット街道を突き進む『エージェント・キム』がこの熱量を維持するためには、現状の王道的要素にどうツイストを加えるかが分かれ目となるだろう。特にミンジ奪還劇のサイドにある朝鮮半島の南北スパイという要素もまた、韓国映画やドラマとしてはかなり手堅いものだ。
南北関係が緊張下にあった時代の遺物のため国家レベルの監視対象となっているキム部長が予想外の行動に出たせいで、かつての上司“オケラ”(ウォン・ヒョンジュン)や周囲の監視役たちが一斉に彼らを追跡。同時に北では、キム部長と因縁の深い政府高官が工作員パク(キム・ソンギュ)を暗殺者として送り込んでくる。これらをオーソドックスに展開してしまうと平凡なドラマに堕しかねないので、鍵となるのは瀕死の重傷を負いながらも生きていた娘ミンジや、実は韓国国家の監視役だったキム部長の同僚チョン代理(ソン・ナウン)といった主要女性キャラだ。ノワールは今なお男性俳優の独壇場のため、彼女たちが躍動すればかなり新鮮さが吹き込まれるに違いない。また北=絶対悪という単純な構図に陥らず、いかにクリシェを脱し現代社会にコミットするヴィランを生み出せるかも重要だろう。南北高位級会談の裏側で暗躍し、今後ミンジの失踪にも関与するであろう韓国随一の建設会社社長チュ・ガンチャン(チュ・サンウク)をどう立体的に描けるかにも注目していきたい。
■配信情報
『エージェント・キム:リアクティベーティッド』
Netflixにて配信中
制作:イ・スンヨン、イ・ソウン、ナム・デジュン
出演:ソ・ジソブ、チェ・デフン、ユン・ギョンホ、チュ・サンウク、ソン・ナウン、キム・ソンギュ、イ・ジェヨン、ウォン・ヒョンジュン、パク・チヌ、チョ・ボクレ、イ・ドンハ、ソ・スミン、ユ・ジアン
(写真はSBS公式サイトより)