『口に関するアンケート』は“顔面映画”の決定版 板垣李光人や清水崇が越えた高いハードル

 “顔面映画”の決定版登場! この世には“顔面映画”と呼ばれるジャンルが存在する。俳優さんの顔面を作品の魅力の根幹に据え、その表情筋の躍動をたっぷりと見せる映画のことだ。ひと昔前でいうなら、竹内力や小沢仁志(顔面凶器)といったコワモテ俳優の映画はこれに相当した。ドスや銃撃戦などを上回る、とんでもない迫力の“顔面力”。彼らはその圧倒的な顔面の力で映画を引っ張った。日本だけではない。個人的に近年でいえば、サフディ兄弟の『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)も顔面映画の傑作に推したい。アダム・サンドラーの凄まじい顔面演技を、これでもかとアップで見せ、圧迫感と緊張感で爆走する傑作だった。

 そして本作『口に関するアンケート』(2026年)も、驚くほどストロングスタイルな“顔面演技映画”に仕上がっている。肝試しに行った若者たちがエラい目に遭う話なのだが、本作はエラい目に遭う登場人物たちのインタビューと回想シーンで進行する。そして特筆すべきは、このインタビューのシーンだ。なんと真正面から俳優の顔面をアップで捉え続けるのである。これがどれだけ度胸がいることか……! 俳優の顔面を真正面から見せるのは、実はなかなか難しい。技量・根性・覚悟の三位一体が必要な場面である。

 俳優の側からすれば、まず単純に演技のハードルが高い。演技とは全身でするものだ。それを顔だけに絞られると非常に厳しい。顔だけで様々な感情を表現しつつ、しかも面白くないといけないわけで……。簡単にいえば顔面だけで間を持たせるのだから、一歩間違えば非常に悲しい結末になってしまう。

 監督としても、俳優の顔面をずっと映すのは高い技量が問われる。観客に緊張感と恐怖感を与えつつ、俳優を見に来た観客のために、顔面を魅力的に撮らねばならないのだ。そして……これはオンライン会議が普及した現在だからこそ分かる感覚だと思うが、どんな整った顔面であろうと、ずっと見ていると、「××さん、話を聞いてねぇなぁ」とか「〇〇さんも老けたなぁ」とか、どうしても細かいところに気がいってしまうのである。ましてや映画館の大スクリーンだ。カメラマンさん、メイクさん、照明さんにとっても、非常に高いレベルの技術的チャレンジを求められたことは想像に難くない。

 そんなわけで顔面の真正面&大アップで映画を一本走り切るという本作のスタイルは、演じる側にとっても、撮る側にとっても、非常に高いハードルだったといえるだろう。しかし、フレッシュな主要キャスト陣と、今やベテランになりつつある監督の清水崇は、この難題をやってのけた。

 清水監督といえば『呪怨』シリーズ(2000年〜)だが、近年は『ミンナのウタ』(2023年)に始まる若手俳優集合映画を手がけ続けている。そのノウハウが存分に活きているのだろう、インタビューパートでも俳優らの粗が見えることは一切ない。それどころか、みんな非常にイイ顔をしているのである。キャスト陣も微妙なニュアンスを取りこぼさず演じており、物語が進むにつれての変化もきちんと表現できていた(顔面だけで!)。主人公を演じる板垣李光人もよかったが、ややガラの悪い若者を演じた森愁斗の、憔悴している顔面が特にお気に入りであると書いておこう。

 そして、「顔面のみ」という制約から解き放たれたとき、キャスト陣はさらに輝きを増す。普通の劇映画パートでも役者たちは好演しており、怪奇現象に対するリアクションはどれも非常に勢いがよい。『呪怨』的な非常に嫌な見え方をする幽霊もいいが、個人的には近年のスティーヴン・キング映画のような、思い切りのよいショックシーンも好印象。ラストシーンを飾る「伸びている」描写も、嫌な異物感が心地よい。そんなフレッシュな若手をサポートするのが、忘れてはならない中村獅童と柄本時生。前者は出てきただけでなにか分からないが、とにかくやさぐれ刑事だと分かる堂に入りっぷり。後者は彼の魅力全開の「胡散臭い食えない男」っぷりで魅せてくれる。

 あの短い原作を1本の長編映画にするのは、それだけでもチャレンジングな企画である。しかし、スタッフ陣はさらなるチャレンジャー魂を持って挑んだ。気づけば気温も高くなり、ホラーに相応しい季節は目の前だ。暑い季節だからこそ、この映画のように熱いチャレンジをしていきたいものだ。今年も夏が、始まった……。

■公開情報
『口に関するアンケート』
全国公開中
出演:板垣李光人、綱啓永、吉川愛、MOMONA(ME:I)、森愁斗、西山智樹(TAGRIGHT)、柄本時生、中村獅童
原作:背筋『口に関するアンケート』(ポプラ社刊)
監督:清水崇
脚本:山浦雅大
プロデューサー:田口生己、佐藤孝樹、白石裕菜、石田基紀
音楽:大間々昂
インスパイアソング:オレンジスパイニクラブ「口」(WARNER MUSIC JAPAN)
制作プロダクション:ホリプロ
配給:松竹
製作:映画「口に関するアンケート」製作委員会
©2026映画「口に関するアンケート」製作委員会
公式サイト:kuchi-movie.jp
公式X(旧Twitter):@kuchimovie
公式Instagram:@kuchimovie

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