『風、薫る』はなぜ“正解のない看護”を描き続けるのか “優しい嘘”に宿る看護の本質

 「ウソと誠」は表裏一体。NHK連続テレビ小説『風、薫る』第14週(演出:松本仁志)は「ウソと誠」をサブタイトルに、ウソだけでもダメ、誠だけでもダメ、どちらか一方的な考え方では看護は成り立たないことを示した。いわゆる嘘は嘘でも“優しい嘘”である。

 第65回でツヤ(東野絢香)が、新入生たちがりん(見上愛)と直美(上坂樹里)の品定めをしていたとき、こう言った。「どっちも大事だよ」。現場に出ればわかると。それは、嘘と誠とは違う話ではある。りんのようにたとえ業務外でも患者の願いをなんでも聞こうとすること。直美のように要領を優先して物事が雑になりかねないこと。どちらも一長一短。その都度、必要な行為は変化していく。嘘も誠も、似ている。

 第59回で捨松(多部未華子)がこう言っていた。「学べば学ぶほど、安易には答えられなくなるのが看護ですよね。何をどこまでどうしたら、患者は一人一人違い、状況は時によって変わっていく」

 捨松の教えをツヤは現場の経験から体得していた。そんなツヤが辞めたことは非常に惜しい。第14週ではさらにホープ・土居ヒデ(池田朱那)も学校を辞めてしまう。ツヤをみすみす辞めさせてしまったりんに不信感を抱いたことも要因のひとつだろう。

 理想を胸に入学したものの、看護婦の仕事の定義は明確でない。そのうえ、困っている人を助ける仕事のはずが、すぐ目の前で困っている人を救うこともできない。そんな現実に純粋な若者は耐えられない。そこがりんや直美たちとの違いだ。りんたちはまず生活のために看護婦になることにしたから。ヒデはりんたちと違って、仕事に高い理想を抱き、やりがいを重視する。お金は二の次。そんな働き方の時代が生まれ始めている。新憲法も発布され、時代はどんどん変わっているところだ。栃木で農業をやっていた虎太郎(小林虎之介)まで下剋上な感じで、いまは努力すれば報われる時代だと人が変わったようになっている。悪いことではないが、昔の虎太郎の素朴さが懐かしい。

 優秀なヒデが辞めてしまったことの責任を問われ、りんは降格処分になる。ヒデが担当だった大腸炎の患者・山本辰治(本田大輔)の担当になった。そして、この山本との出会いがりんを更なる試練の道へと導いていく。

 山本は大のホラ吹きで何事も盛って話す。本気で聞くとバカを見る。このお調子者の山本の言動もサブタイトル「ウソと誠」にかかっている。

 対するりんは額面通りに物事を受け止めがち。なおさら山本に振り回される。りん自身は思ったことをすぐ言葉に出すタイプなので、山本に言われたことをなんでも真に受け、良いからかい対象になる。

 山本の妻・テイ(伊勢佳世)は夫のことをよくわかっていて、うまくいなしている。

 テイもウソをついている。山本は腸炎だと思って通院していたが、がんの疑いがあった。でもテイは腸炎だということにして手術を受けるよう夫に促したのだ。こういうことは現実でもあること。当人に本当のことを言うべきか言わないほうがいいか、それはやっぱりケース・バイ・ケースである。がんに罹った身内に告知するか否か。結果はわからないが手術するか否か。究極の選択だ。迷って迷って、ときには間違ったほうを選んでしまうことだってある。

関連記事