『風、薫る』ヒデ、フユ、千佳子らりんを成長させた人たち 試練の先にある看護婦の姿勢

 『風、薫る』で描かれてきたりん(見上愛)は、さまざまな出会いをしてきた。バーンズ(エマ・ハワード)や捨松(多部未華子)のように、新しい世界へ導いてくれる人物もいれば、りんの前に壁として立ちはだかる人物もいる。特に後者の存在は、りんに痛みや迷いを与えながらも、彼女が自分の生き方を選び直すきっかけになってきた。第14週「ウソと誠」で登場している山本辰治(本田大輔)もその一人だろう。

 りんがどのような出会いを経て、今の看護婦としての姿にたどり着いたのか。今回はその中でも、りんの成長のきっかけとなった人物を改めて振り返っていきたい。

奥田亀吉(三浦貴大)

 りんの人生を大きく変えた最初の存在として、亀吉(三浦貴大)は欠かせない。かつてりんは、奥田家に嫁ぎ、いわゆる“奥様”として生きる道を受け入れようとしていた。家のため、母のため、そして生まれてくる子どものため。そう自分に言い聞かせるように始まった結婚生活だったが、亀吉との日々は、りんに幸福な結婚の幻想を静かに壊していくものでもあった。

 酔って荒れる亀吉の姿は、りんに奥田家で生きていくことの限界を突きつけた。夫として向き合おうとしない相手のもとで、妻として、母として、この先も自分を押し殺して暮らしていくのか。娘・環(宮島るか/英茉)の未来まで家の価値観に縛られてしまうのではないか。そうした不安が積み重なったことで、りんは「奥様」としての人生に見切りをつけていく。亀吉との結婚生活は苦しい経験だったが、その苦しさがあったからこそ、りんは自分の人生を選び直す覚悟を持つことができた。

園部弥一郎(野添義弘)

 看護婦見習いとなったりんに、現場の厳しさを最初に突きつけたのが、園部(野添義弘)だった。帝都医科大学附属病院での実習で、りんは手術を終えた園部の担当になる。少しでも力になりたいと懸命に声をかけるが、園部は簡単には心を開かない。りんの言葉は空回りし、患者のために動いているつもりでも、その思いが相手に届くとは限らない現実を知ることになる。

 その後、園部の再手術は成功するが、りんは担当を外されてしまう。この出来事が苦いのは、りんが怠けていたからではなく、むしろ一生懸命だったからだ。誰かを助けたいという思いだけでは、患者の孤独や不安には届かないことがある。園部との関わりは、りんに看護の難しさを突きつけた。同時にそれは、りんが“患者に寄り添う”という言葉の意味を、初めて本当の意味で考えるきっかけにもなった。

和泉千佳子(仲間由紀恵)

 千佳子(仲間由紀恵)もまた、りんの看護婦としての視線を変えた人物だった。侯爵夫人である千佳子は、病を抱えながらも凛とした態度を崩さず、周囲に簡単には弱さを見せない。看護婦見習いのりんに対しても、最初から心を許すわけではなく、どこか距離を置いて接していた。だが、その強さは単なる気位の高さではない。手術への恐怖や、侯爵夫人として弱音を吐けない孤独を抱えていたからこそ、千佳子は自分を保つように気丈に振る舞っていた。

 手術前夜、りんは千佳子のそばで一晩を過ごすことになる。そこでりんが見たのは、病への不安を抱えながらも、侯爵夫人として気丈に振る舞おうとする千佳子の姿だった。りんは無理に励ましたり、本音を聞き出そうとしたりするのではなく、ただそばにいることを選ぶ。その時間の中で、千佳子は少しずつ弱さを見せていく。千佳子との関わりは、りんに「寄り添う」とはどういうことかを考えるきっかけになったはずだ。りんは、千佳子の気高さと、その奥にある不安に触れたことで、りんは患者の心の奥にある思いにも目を向けるようになっていった。

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