『風、薫る』“りん”見上愛の強がりからにじむ寂しさ 看護を通じて問われる“天職とは何か”

「一ノ瀬先生がいい看護婦なら、私は看護婦にはなれないし、なりたくありません」

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第66話では、ヒデ(池田朱那)がりん(見上愛)に退職の意志を伝えた。

 ツヤ(東野絢香)が病院を去ってから2カ月。りんは以前にも増して、仕事に打ち込むようになっていた。それは単純に仕事が忙しくなったというよりは、ひたすら身体を動かすことで雑念を振り払っているように見える。

 看病婦の仕事をしながら、看護婦を目指していたツヤ。寝る間も惜しんで勉強に励んでいた彼女は疲労から仕事で重大なミスをおかし、病院を解雇になってしまった。ツヤが看護科の授業を受けられるように、院長の多田(筒井道隆)にかけ合ったりんは相当責任を感じたのだろう。それなのに、自分には何のお咎めもなかったことが余計に辛いのかもしれない。

 そんなりんを人知れず気にかけていたのが、直美(上坂樹里)だ。幼い頃から過酷な環境で生きてきたがゆえに、良くも悪くも人の本性や本音を見抜く力に長けている直美は、りんの気持ちはもちろん、母親の不在で環(英茉)が寂しい思いをしていることにもいち早く気づいた。休みの日には率先して環を外へ連れ出し、団子屋の前で遭遇した島田(佐野晶哉)にりんの様子を伝える。

 「それはりんさん、気落ちしてるだろうなぁ……」と慮る島田に、「でも、そういう時ほど、あの子、ニコニコ笑って忙しく働くんですよね」と呆れ気味に話す直美。りんは素直なようでいて、負の感情は決して他人に見せようとせず、自分で背負い込んでしまう。それは周りに心配をかけまいとする優しい彼女なりの気遣いなのだが、直美と島田にとってはどこか寂しくもあるのだろう。種類は異なるが、りんを大切に思う者同士、2人には言葉にせずとも通じ合う部分があるようだ。

 後日、相変わらず忙しく働くりんに直美は「りんが無理してもツヤさんへの罪滅ぼしにはならないよ」と忠告する。しかし、りんは頑なに自分の意思を曲げようとしない。そこにヒデがやってきて、「私、辞めます」と告げた。看病婦としての確かな経験と技術があり、加えて恵まれない環境の中でも看護婦になるため、人一倍努力していたツヤをきっと誰よりも尊敬していたであろうヒデ。そんなツヤが病院を辞めることになり、彼女はその理不尽に耐えられなかったのではないだろうか。

 だが、それ以上に決定打となったのはりんの言葉だ。「先生は看護の仕事が天職だと思っていますか?」というヒデの質問に、「天職にしたいと思ってる。看護婦の仕事は好きで楽しいから」と答えたりん。それを聞いて、看護婦の仕事に意義を感じてはいるものの、決して楽しいとは思えないヒデは自分にこの仕事は向いていないと思ってしまったのだろう。

 ここで出てくるのは、「天職とは何か」という疑問だ。天職とは一般に、天から授かったとされる、その人の天性(生まれつきの性質)や才能に最も適した仕事のこと。その意味に則せば、たしかに患者の気持ちにひたすら寄り添い、その求めにもできる限り応じて、患者に喜んでもらえることを至上の喜びとするりんにとって看護婦の仕事は天職と言えるだろう。問題は、りんとは対照的に思える直美もまた、陸軍二等軍曹の小川(甲斐翔真)から「大家さんは看護婦が天職だ」と言われていること。直美はりんと違い、「できることはできる、できないことはできない」としっかり線引きした上で、目の前の患者と向き合っている。楽しいか楽しくないかは置いといて、淡々と業務をこなせる彼女だって、ある意味では看護婦に向いているはずだ。

 見習い生への“示し方”も、りんと直美は正反対である。看護婦取締という責任ある立場にいる自分が一番働かなければならないと思っているりんに対し、みんなが一人で仕事を背負い込むことなく、しっかり交代で休めるように、まずは自分が率先して休みを取る直美。どちらが正しくて間違っているかという優劣で語れるものではなく、両方のタイプが存在していいはずだ。けれど、向上心が高く、つい正解を求めてしまうヒデは、りんが看護婦の正解例だと判断してしまったのだろう。

 「天職とは何か」という問いは、「看護とは何か」という問いにも密接に繋がっている。その問いに正解はなく、各々が一生懸けて向き合い、自分なりの答えを見つけ出していく必要がある。りんと直美はきっと薄々気づきかけているが、なまじ看護婦として入り口に立ったばかりのため、後輩たちにそれをどう伝えていいかわからない。後進を育てる難しさに、彼女たちはあまりにも早く直面している。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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