“作画アニメ”の条件とは? 『上伊那ぼたん』と『とんがり帽子のアトリエ』を比較分析

「はまじ再臨」を目指す『上伊那ぼたん』

 ただ『上伊那ぼたん』と『とんがり帽子』の作画の良さを比較するにあたって、アクションやエフェクトの有無を指摘するのは簡単だが、それ以上に視聴者にとって重大な差異はシリーズを通したルックの統一感の有無だろう。

 『とんがり帽子』はキャラクターのルックや芝居の方向性などは基本的に全話数で統一されている。一方で『上伊那ぼたん』においてはキャラクターのルックから演出プランまで、基本的に各話のスタッフの個性が大きく反映される方針を取っている。

クリエイターの個性を活かしたエピソード作りをすることですね。当初は方向性をもう少し定めるつもりだったのですが、各エピソードを担当する方の作風が画にあらわれるようにして、それを見どころにしたいな、と考えていました。(※2)

 例えば、第2話では松尾祐輔の一人原画によりゆるく線数の少ないキャラクターデザインが特徴的であり、第3話ではシャフト好きを公言する銀さん(※3)が絵コンテを務め、顔のデフォルメや文字演出などを多用し『ひだまりスケッチ』を彷彿とさせる画面が展開された。

 これらのスタッフの個性を全面に出す方針は、メインスタッフによるリレーインタビューを公開していることからも読み取れる。プロデューサーから作画監督、シナリオチームに音楽まで、作品に携わるさまざまなスタッフにインタビューを行い、無料で公開している。
各話における強い作家性を許容しインタビューという形で取り上げるのは、視聴者に毎話新鮮な驚きを与えつつ、クリエイターに単なる作業ではなく表現の場として作品を作ろうとする姿勢があるからだろう。

 これについて原作者・塀がX(旧Twitter)上にて、「佐久間監督や村上Pたちに、『八犬伝~新章~第4話「浜路再臨」』のような回が入り乱れ、ワクワクするようなアニメになったら嬉しいともお伝えしていました」(※4)と公言している。

 ここで名前が挙げられている『THE八犬伝〜新章〜』の第4話「はまじ再臨」とは、1990年代前半にアニメファン・作画ファンに衝撃を与えた「作画回」的な話数である。

 「はまじ再臨」は、美男子を描く一種のイケメンコンテンツ的な側面が強かった『THE 八犬伝』シリーズにおいて、それ以前のアニメとは違う斬新な作画とそれ以前の話数とは顔が全く似ていないキャラクター描写のふたつの異常性をもって、いわゆる伝説的な扱いをされている。

 『上伊那ぼたん』が「はまじ再臨」のような回が入り乱れることを目指しているのだとすれば、この各話ごとの色が強いのも当然である。

 また、「はまじ再臨」がその話数においてのみデザインが変化していたことを踏襲する『上伊那ぼたん』も、当然話数ごとにキャラクターのデザインを変化させる。イケメンコンテンツであった『THE 八犬伝』と同じように『上伊那ぼたん』も美少女コンテンツであるのだから見事に再現されている(ちなみに『THE 八犬伝〜新章〜』は第3話「妖猫譚」など「はまじ再臨」以外の話数においても、必ずしもシリーズ全体のキャラ表に忠実に作画されているわけではないが総じて「はまじ再臨」ほど露骨ではない)。
   
 各話ごとのキャラクターデザインの変化に自覚的で、かつ積極的に押し出していることは、毎週公式X(旧Twitter)により投稿される「これまでの上伊那さん」のキャラクター比較画像からもわかる。

TVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』X(旧Twitter)アカウント

 このように「はまじ再臨」のようなシリーズにおける外れ値的な話数を意識し、各話ごとの個性が強い『上伊那ぼたん』は、その何が来るかわからないコンセプトから「作画がいい」以上の驚きと期待を視聴者に与えてくれる。原作をどれだけ良くアニメ化できるかといった直線的な評価軸のような「作画がいい」とは異なる方向を向いている、実験的な性質が本作の特徴として挙げられるはずだ。

 このように両者を比べてみると、どちらも「作画がいい」と言われる作品ではあるが、全体に一貫性を持たせながらクオリティを高めることを目指す『とんがり帽子』と、統一感よりも作家性を色濃く出し視聴者に毎話驚きを与えてくれる『上伊那ぼたん』では目指しているものが大きく違うことがわかる。作画はアニメの大きな見どころとなる一方で、あまり詳しく着目されないことも多い要素だ。もしこの記事を読んで気になったのなら、現在はクリエイターがどこのパートを務めたのか素材とともに発信することも多いので、それらを意識的に見てみるなど作画について関心を持ってもらいたい。

参照
※1. https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20260502-GYT8T00116/、https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20260606-GYT8T00121/
※2. https://febri.jp/topics/kamiina_botan_01/
※3. https://x.com/ginsansecond?s=21
※4. https://x.com/tonarinohey/status/2047253910411473386?s=46

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