『風、薫る』はなぜ朝ドラの“王道”を外し続けるのか? 小林虎之介の再登場に隠された意味
ひとつの週をワンテーマでまとめない。それがNHK連続テレビ小説『風、薫る』の特徴である。第12週「旅立ち」(演出:佐々木善春)は卒業と恋、それも三角関係の2本立てだった。りん(見上愛)と直美(上坂樹里)たち看護婦養成学校第一期生の卒業の余韻も冷めないうちに、りんの幼なじみの虎太郎(小林虎之介)が現れ、シマケン(佐野晶哉)にライバル心をむき出しにする。
虎太郎は銀座の製薬会社に就職し、ぱりっとした洋装で立派になっていた。製薬会社ということは、今後、りんとも密接な関わりをもつだろう。りんへの想いを自覚しているが、彼女に積極的にアプローチできずにいたシマケンは焦る。まだまだ作家として身を立てることができないことが彼を消極的にさせてしまうのだ。
週の前半は虎太郎登場など思いもしなかった。メインはバーンズ先生(エマ・ハワード)だ。りんたちが研修している病院の院長(筒井道隆)は彼女たちが意外と病院に役立っているのを見て看護婦の重要性に気づいた。そして自分たちで看護婦を養成することに決める。養成学校の生徒たちの受け入れはストップになり、第二期生を募集しようと動き出していたバーンズの計画は頓挫した。りんたちが卒業後、病院に就職する話もなくなって……。
バーンズはりんたちに気づかれないようになんとかしようと奔走する。捨松(多部未華子)、勝海舟(片岡鶴太郎)、千佳子(仲間由紀恵)といった権力者たちに働きかけて、なんとかりんたちの就職先は確保された。
卒業式にバーンズがアップルパイを作ったり、看護とは何かという重大な問いがあったり、看護婦を諦める人も出てきたり、でも栄光の初期メンバーで写真を撮ったり、日本で最初の看護婦を描く物語の重要なところである。だがそれが、第60回で虎太郎が出てきた瞬間、強い風に吹き飛ばされたように遠い記憶の彼方にいってしまった。しかも、第60回オンエア後、『あさイチ』(NHK総合)に虎太郎役の小林虎之介が出演し、たっぷり魅力を振りまいたものだから、虎太郎株はバク上がりである。
とはいえ、恋愛エピソードを思いつきやノリで描いているわけでは断じてない。着々と布石を打っているのが吉澤智子の脚本の妙である。
まずは、シマケンが書いた新聞記事を思い出そう。遊女が客に無理心中させられた事実を、故郷の幼なじみとの恋愛ものに大胆にアレンジしたら、それが世間では大受けした。主人公の故郷の幼なじみ設定といえば虎太郎も同じ属性。シマケンの言葉の力が発揮されたのか、虎太郎とりんを再会させてしまった皮肉な展開となった。
それから、安(早坂美海)の結婚。シマケンの友人・太一(林裕太)の兄・宗一(上杉柊平)との縁談が持ち上がったが、太一が横恋慕。制度として結婚をするのではなく、恋のススメを熱心に説く。一時的に安は結婚をやめると言いだしたが、紆余曲折を経て結婚をやめるのをやめる。太一の恋の情熱にほだされたわけでは決してなく、いつしか宗太に恋をしていることに気づいたのだ。