『トイ・ストーリー』の続編展開は異例だった? クリエイターたちの知られざる情熱と奮闘
「大惨事」とまでいわれた『トイ・ストーリー2』のプロトタイプ
もっとも、映画として公開する方針に切り替わった時点で、ここまでの傑作になることが決まっていたわけではない。ピクサー共同創設者で、2019年までピクサーとディズニー・アニメーションの社長を務めたエド・キャットムルが、ジャーナリストのエイミー・ワラスと書いた『ピクサー流 創造するちから』(ダイヤモンド社)によると、公開まで1年あるかないかという段階でリールを見た『トイ・ストーリー』のジョン・ラセター監督は、エドの前で「大惨事」という言葉を口にしたという。
「物語は空っぽで先が読め、緊張感がなく、冗談も笑えない」。そう感じたラセターやキャットムルは、当初決まっていた2人の監督を替えてラセター自身が監督に就き、後に『トイ・ストーリー3』(2010年)で単独監督を務めるリー・アンクリッチを共同監督に指名して立て直しに取り組んだ。『ピクサー流 創造するちから』によれば、「この作品の根本的な問題は、ジョンが最初にチームを呼び集めたときに言った、脱出冒険物語なのに先が読めて、さほど感情にも訴えないという点にあった」という。
「映画として成立するには、いつかは成長し自分を捨ててしまうアンディのいる世界に戻るのか、安全だが愛してくれる人のいない場所にとどまるのか、というウッディの迷いを、観る人が本当のことのように思えなければならない」。つまりは、ウッディがジレンマに陥っていることを観客が感じ取れるようにする必要がある。そこで、鳴き声が出なくなって棚に置かれたままとなっていたペンギンのウィージーという玩具を冒頭に出して、玩具の運命を強く印象づけるようにした。
カウガール人形のジェシーの物語も補強した。ウッディとは違って持ち主から見放され、長く暗い場所に閉じ込められていたジェシーの境遇を添えて、玩具を待ち受ける運命をより強いものとして浮かび上がらせた。「『あなたは永遠の人生と愛、どちらを選びますか』。その選択が持つ葛藤を感じることができて初めて、映画だと呼べるのだ」とキャットムル。映画にとって重要な観客に感動をもたらすためのストーリー作りを、途中で監督を変えスケジュールが切羽詰まっていても怠らない信念が、『トイ・ストーリー2』を歴史に残る傑作へと押し上げた。
映像のクオリティアップにも力を注いだ。『メイキング・オブ・ピクサー』によれば、当初は『トイ・ストーリー』のデジタルデータを使い回して効率を上げる予定だったが、「全社に行き渡った完璧主義の文化のせいで、思ったほど再利用はされなかった。キャラクターのモデルは前作と変わらないように見えたが、その実は大幅にグレードアップしていた」。ウッディが着ているシャツやジーンズの質感がより布に近づいていることも、『メイキング・オブ・ピクサー』では指摘されている。
こうしたクリエイターのこだわりも、『トイ・ストーリー2』がビデオから映画に変わった背景にあったようだ。『ピクサー流 創造する力』によれば、平行して作られていた映画『バグズ・ライフ』に比べて予算が絞られ、品質も落とさざるを得ないビデオ作品に携わることを、クリエイターが嫌がったという。『メイキング・オブ・ピクサー』にも、「ピクサー経営陣の創作意欲は、視覚的に最高のレベルに届かない、スクリーン上で手抜きが見えるような映画を制作することを受けつけなかった」と書かれている。
だから、映画として作ることにして、クリエイターが最高の力を発揮できる環境を整えた。そして、映画としてしっかりと売れるものに仕立て上げる努力を惜しまずに注ぎ込んだ。そうした繰り返しがピクサーの作品を確実に面白いものにして、今に繋がっているのだとしたら、『トイ・ストーリー2』はまさしく分水嶺的な作品だ。観て、ただの続編ではない“真価”を確かめよう。
参照
※ http://www.art-c.keio.ac.jp/old-website/education/creative/log/080522.html
■放送情報
『トイ・ストーリー2』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、6月19日(金)21:00〜22:54放送
※本編ノーカット
監督:ジョン・ラセター
共同監督:リー・アンクリッチ、アッシュ・ブラノン
脚本:アンドリュー・スタントン、リタ・シャオ、ダグ・チャンバリン、クリス・ウェッブ、ジョー・ランフト
音楽:ランディ・ニューマン
吹替版キャスト:所ジョージ(バズ・ライトイヤー)、唐沢寿明(ウッディ)、日下由美(ジェシー)、小林修(プロスペクター)、名古屋章(ミスター・ポテトヘッド)、永井一郎(スリンキー・ドッグ)、三ツ矢雄二(レックス)、大塚周夫(ハム)、戸田恵子(ボー・ピープ)、樋浦勉(アル・マクウィギン)、北尾亘(アンディ)、楠トシエ(ミセス・ポテトヘッド)、佐古正人(ウィージー)
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