Aぇ! group知識ゼロ筆者が映画『おそ松さん』を観た アニメ第1期を思い出すカオスさに感動

 そして、もうひとつの驚きが演技力だ。

 当然ながら実写である以上、アニメのように「顔が同じ6つ子」として見えるわけではない。身体的な意味で完全な6つ子に見えるかと言われれば、そこには限界がある。けれど観ているうちに、不思議と「この人たちは6つ子なのだ」と受け入れてしまう。それは演技の力がかなり大きい。

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 もう少し言うなら、今回は衣装や髪型でキャラクターに寄せていることはそこまで関係なく、6人それぞれが自分の役の“濃さ”をきちんと引き受けながら、同時に全体のバランスを崩していないことが大きかったように思う。『おそ松さん』の6つ子は、誰もが強い。だからこそ全員が主張の強いキャラクターで、ひとりだけが突出しすぎても、逆にひとりだけが薄くなっても、あの混沌とした空気は成立しない。

 本作では、その6人全員が揃うことによって生まれるカオスが、きちんと画面に宿っている。全員がそれぞれの濃さを持ち寄った結果として松野家の空気が立ち上がり、アニメ第1期を初めて観たときの「なんだこれは!?」と思わされる感覚を思い出す。

 そのなかでも、とりわけ印象に残ったのが佐野晶哉演じるチョロ松と、小島健演じる一松だ。

 アニメ版のチョロ松を演じる神谷浩史の声の印象が強く残っているぶん、実写ではどう見えるのだろうと思っていた。けれど佐野晶哉のチョロ松は、とにかく声がしっくりくる。短いシーンではあるが、“アイドルパート”での歌唱の声もよく、あとから佐野が映画『トリツカレ男』で主人公・ジュゼッペ役を務めていたことを知り、なるほどと納得した。推しを前にしたときの言葉の跳ね方や焦ったときの温度感が自然で、「チョロ松だ」と思える瞬間が何度もあった。

 一方の一松も、実写化が難しいキャラクターだと思う。6つ子のなかでもカラ松、一松、十四松は、特に実写化に向いているとは言いづらいキャラクターではないだろうか。なかでも一松のダウナーさは、実写で演じるとただ暗い人になってしまったり、悪い意味でかっこいいミステリアスさに寄ってしまったりする危うさがある。つまり、リアリティのバランスとギャグの落としどころがかなり難しい役どころともいえる。

 その点、小島健の一松は、丸まった猫背とふいに浮かぶ引き攣った笑顔が印象に残る。ダウナーなキャラクターだからこそ、立ち方や表情の端々から一松らしさを見せていたところがよかった。暗さだけでなく、少し厄介な愛嬌まで含めて、実写の一松として成立させていたように思う。

 この2人に限らず、本作の6人はそれぞれに役の“濃さ”を引き受けていた。6人を並べたときに、ちゃんと「松野家の6つ子」を演じている。その時点で、この実写化はかなり大きなハードルを越えていたのではないかと思う。

 そのうえで、今回かなりキャラクターに入れ込めたのは、物語の組み立ても大きかったのではないだろうか。ギャグコメディなので、何か大きなカタルシスや感動を期待すると、それは少しズレるのかもしれない。けれど『おそ松さん』らしいくだらなさを実写でやり切ることに振り切り、ストーリーテリングそのものというより、6人ものキャラクターをしっかり見せるための映画としてよくできていたように思う。

 一方で、ネタバレになるため詳しくは伏せるが、おそらく事務所ネタや2022年公開の実写第1弾を観ていたほうが笑える箇所も少なくない。そこは正直、キャストの文脈がわからない筆者には拾い切れない部分もあった。ただ、それでも置いていかれた感覚はそこまでなく、むしろギャグコメディとしての勢いを保ちながら、伏線を回収しつつ6つ子それぞれのキャラクターを見せていく構成はかなり見やすい。

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 そして、序盤にはかなり優秀な自己紹介パートもある。最初は「キャラクターを知らない人に向けた説明だろう」と思って観ていたが、あとから振り返ると、6つ子それぞれの性格や立ち位置を見せながら、後半につながる要素もさりげなく仕込まれている。ギャグのテンポで流しているようでいて、ちゃんと物語上の役割がある部分が多い。意外と言っては失礼かもしれないが、キャラ見せを重視した起承転結がきちんとしているのも、今回の実写化のポイントだろう。

 少なくとも筆者にとっては、「アイドル主演の実写版『おそ松さん』」という言葉から想像していたものより、ずっと振り切れていて、素直に楽しい作品だった。6つ子を演じるキャストの文脈をほとんど知らない状態で観ても、それぞれの見せ方に驚かされる。もちろん、実写化のあり方として賛否はあるかもしれない。それでも『おそ松さん』という作品の魅力の核を、実写ならではの形でうまく消化したエンタメ作品だったのではないだろうか。

参照
※ https://www.kogyotsushin.com/archives/topics/t8/202606/15153645.php

■公開情報
映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』
全国公開中
出演:Aぇ! group(末澤誠也、正門良規、佐野晶哉、小島健、草間リチャード敬太、西村拓哉、渡邉美穂、大貫勇輔、なえなの、野口衣織(=LOVE)、三宅弘城、木村多江、宮内ひとみ、千葉雄大、船越英一郎
原作:赤塚不二夫『おそ松くん』
監督:川村泰祐
脚本:宅間孝行
音楽:橋本由香利
主題歌:Aぇ! group「でこぼこライフ」(UNIVERSAL MUSIC)
制作:はちのじ、パイプライン
配給:東宝
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