『タツキ先生』は子どもを取り巻く問題にどう向き合ってきた? “異様にリアル”な当事者性

 だが、それ以上に本作を安心して観ることができるのは、「大人も間違える」ということを前提に作られているからではないだろうか。脚本を担当する徳尾浩司の過去作(『おっさんずラブ』『私の家政夫ナギサさん』『ライオンの隠れ家』など)にも感じられた、右往左往する大人への温かな眼差しがこのドラマにも横たわっている。学園ドラマを筆頭に子どもが“主役”の作品では、往々にして大人は子どもを導く存在として描かれがちだが、少なくともタツキはそうではない。熱血な姿勢で子どもたちを引っ張っていくでも、救いの言葉をさっと差し伸べるでもなく、「自分の対応はあれで本当に正しかったのだろうか」と振り返ったり、江口演じる代表の三雲に相談したりと、彼自身、迷いながら子どもたちと向き合っている印象を受ける。

 大前提、不登校は病ではないので、治療法はもちろん、「こうすれば解決する」という万能な方法は存在しない。劇中でも触れられていたように、学校に行けない子どもにとって、ゲームは“命の浮き輪”と呼ばれていること、支援の現場で時に起こる転移・逆転移という現象、「依存先は小さく、たくさん」など、ある程度、知っておくべきことはある。ただ、学校に行けない理由も様々で、いじめのように明確な原因があるとも限らないので、対応法もケースバイケースなのだ。

 加えて、タツキが慎重になるのは過去に対応を間違ってしまった経験があるからだ。息子の蒼空(山岸想)が学校に行けなくなってしまったとき、無理やり部屋から引きずり出そうとしたり、スマホやゲームを取り上げたりという強硬手段に出てしまったタツキ。その結果、蒼空の心は壊れてしまい、自殺未遂や家庭内暴力にまで発展してしまった。だが、本作はそんなタツキを責める描き方はしていない。

 印象的だったのは、タツキが自身の父である一樹(杉本哲太)と釣りをしながら子供の頃の話をするシーン。タツキは小学生のとき、赤色で描いた空の絵を、一樹に青色で描き直させられ、傷ついたことを本人に伝える。すると、一樹はそのことをすっかり忘れていたばかりか、「別に赤い空でもいいよな?」と言うのだ。でも、それはタツキがすでに独り立ちし、子育てを終えた今だからこそ言えること。後から振り返れば、「なんであんなに悩んでいたんだろう?」と思うようなことでも、子育て真っ最中のときは深く悩み、少々強引でも子どもを正しいほうに導こうとしてしまう。

 きっとこのドラマを観ている人の中にも、タツキの子どもファーストな姿勢に「甘すぎる」「無責任だ」と感じたり、「苦しいことから逃げて将来困るのは子ども自身なのだから、もっと厳しくするべきだ」と思ったりする人もいるのではないか。その気持ちもわからなくはないが、タツキが第1話で言っていたように「大切なのは将来より今」なのだ。子どもの心は想像以上に壊れやすく、将来のためにと頑張った結果、粉々になって二度と戻らなくなる可能性だってある。

 そのことをタツキは誰よりも知っているからこそ、子どもたちの“今”、目の前にある“命”を大切に扱う。ゲームやアートを通じて、彼が知ろうとするのは「子どもたちが何を思い、どうしていきたいか」ということ。それを知ってタツキがどうするかというよりは、本人に自分の気持ちを気づかせたいのだろう。その先のことは、子ども自身が決める。子どもは守るべき存在だが、大人が導くべき存在ではない。そこまで大人は完璧でもなければ、正しいわけでもないのだ。本作は、大人がそこに気づくためのドラマであり、タツキが「ユカナイ」での学びを経て、自分の息子と今度こそ対等に向き合えるようになるまでの成長物語なのだと思う。子どもと大人の関係を描く作品群の中で、間違いなくエポックメイキングな一作になるといえるのではないだろうか。

参照
※1. https://digital.asahi.com/articles/ASV1X2FCLV1XUTFL01MM.html
※2. https://x.com/shikouishii/status/2028953638874562757?s=20
※3. https://x.com/shikouishii/status/2042172343217430995?s=20
※4. https://x.com/shikouishii/status/2042424656456794345?s=20

■放送情報
『タツキ先生は甘すぎる!』
日本テレビ系にて、毎週土曜21:00~放送
出演:町田啓太、松本穂香、藤本美貴、寺田心、三遊亭好楽、比嘉愛未、江口洋介
脚本:徳尾浩司
演出:鈴木勇馬、松下敏也、苗代祐史
音楽:得田真裕
主題歌:福山雅治「拍手喝采」(アミューズ/Polydor Records)
フリースクール監修:石井しこう
アートセラピー監修:浜端望美
企画協力:前田志門
プロデューサー:岩崎秀紀、秋元孝之、大護彰子
チーフプロデューサー:荻野哲弘
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/tatsuki/
公式X(旧Twitter):https://x.com/tatsuki_ntv
公式Instagram:https://www.instagram.com/tatsuki_ntv/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@tatsuki_ntv

関連記事