『ほんのモキチ』は宮藤官九郎らしい“笑い×シリアス”に期待 バカリズムと共通する現代性

 宮藤のファンにとっては、過去作の出演者が再び起用されるのかも大きな注目ポイント。続けて成馬氏は宮藤の作風について「社会状況とクドカンらしいユーモアのバランスをどう保つのかも見どころ」だとして、本作への期待を述べた。

河合優実(写真=渡辺彰浩)

「朝ドラは、コメディとしてやりすぎると、視聴者から不快だと思われて観てもらえなくなってしまう危険性があります。ただ、『ばけばけ』のような成功例もありますので、一番大事なのはブラックになりすぎないバランス感覚かと思います。『ほんのモキチ』は、楽しいコメディにになると告知されていますが、夫婦喧嘩のシーンがどう受け入れられるか次第ですかね。また、気になるのは時代背景です。明治時代から物語は始まり、齋藤輝子さんが亡くなったのが1984年ですから、戦中・戦後も描くことになると思うのですが、そのことを踏まえると、演出に井上剛さんがいることの意味はすごく大きいですね。井上さんは2025年に監督した、村上春樹の短編集『神の子どもたちはみな踊る』をドラマ化した『地震のあとで』(NHK総合)では、阪神淡路大震災、東日本大震災、コロナ禍といった天災を通して1995年から2025年までの日本を描きました。『ほんのモキチ』のあらすじを読むと関東大震災や東京大空襲も描かれるようなので、井上さんがどのように映像化するのか、そして宮藤さんはそんな過酷な状況を描きつつも、“笑い”に昇華しようと挑戦すると思うので、このバランスがどうなるのかが、非常に気になります。まぁ、『あまちゃん』の成功があるので、今回も大丈夫だとは思いますが、客観的に見るとすごくシリアスな状況を描いているのに、なぜか笑える話になるのではないかと思います。宮藤さんはシリアスな状況であればあるほど“笑い”を入れようとする作家なので、空襲の中でも夫婦喧嘩しているような、ブラックコメディ的な展開もあるかもしれません」

 また、シリアスな社会状況に日常の“緩いコメディ”を重ねるような作風は「今っぽい」という。

「現時点では、ふわふわとした楽しい話になるという印象ですが、蓋を開けてみたらシリアスで怖い話になるのかなという気もします。『新宿野戦病院』(フジテレビ系)のトーンに近いのかもしれませんが、その落差も“今っぽいな”と思います。2022年末にタモリさんが来年は“新しい戦前”になるんじゃないかと言いましたが、年々、“新しい戦前”という言葉の説得力が増しています。アメリカとイランの戦争は日本に物価高騰という形で大きな影響を与えており、自分たちの日常と国外の戦争は地続きなのだと今年に入って強く実感する機会が増えています。『ほんのモキチ』が放送される2028年に日本がどういう状況になっているのかわかりませんが、こういう時代だからこそ、バカリズムさんが脚本を務める『巡るスワン』が“何もない日常”を描こうとしているのは、とてもよく理解できます。何が起きてもおかしくない現在だからこそ、“何も起きない繰り返しの日常”を描くことに意味が出てくる」

 バカリズム、宮藤とコメディ描写に定評のある作家の起用が続く朝ドラ。成馬氏は「朝ドラはバカリズムさんや宮藤さんなどに脚本を書かせるような冒険性がまだあるんだなと思いました」と評価し、今後の展望についてこうまとめた。

「朝ドラは注目度が高いドラマ枠なので、今後は保守的な内容になっていくのかなぁと心配していた時もあったんですが、『虎に翼』や『ばけばけ』を観ていると、まだまだ“新しい挑戦は”できるんだなぁと驚きました。バカリズムさんと宮藤さんに挟まれている2027年度後期を誰が作るのか気になりますが(笑)、あえて、作品数が少ない若手脚本家を大抜擢して、自由に書かせてほしいなと思ったりもします。バカリズムさんや宮藤さんのような先鋭的な作家が活躍できる状況は、朝ドラにとっても、すごくプラスだと思います」

参照
※ https://www.nhk.jp/g/blog/1pixm9gd6/

■放送情報
2028年度前期 NHK連続テレビ小説『ほんのモキチ』
NHK総合にて、2028年春~放送
出演:河合優実
作:宮藤官九郎
制作統括:板垣麻衣子、訓覇圭
プロデューサー:村田有里
演出:井上剛 、津田温子ほか
写真提供=NHK

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