『風、薫る』“ゆき”中井友望が流した大粒の涙 『ベビわる』とのギャップに驚かされる
『風、薫る』(NHK総合)第47話では、かけがえのない仲間がりん(見上愛)と直美(上坂樹里)の元を去った。
小野田(宮地雅子)を看取った後、実習を休んでいたゆき(中井友望)。バーンズ(エマ・ハワード)は生徒たちを連れてゆきの部屋へ行き、その場で授業を始める。ゆきも起き上がって参加した。
ゆきは小野田の死にショックを受けていた。「いつ亡くなってもおかしくない」小野田と仲良くなり、好意をもって接するうちに、失う恐怖が増し、ついにその瞬間を迎えた。嗚咽をこらえながら話すゆきの中で、小野田の死は、今なお現実のものとして続いていた。
言葉を次いだゆきは「看護婦は人を助けるだけでなく、見送る仕事でもある」と語る。「助けたいと思って」看護婦を志したゆきは、失うことの辛さに直面していたのだった。
ゆきと同じ組で、内科の患者を担当していたトメ(原嶋凛)は、小野田の死に涙を見せなかった。しかし、つらくなかったわけではない。バーンズが言うように「耐えることとつらいと思うことは別の話」で、トメが動じていないように見えたのは、個人的な経験も影響していた。
末っ子のトメは兄を労咳で亡くしており、看護婦を目指したのも「悔しくて、かたき取ってやろう」と思ったことがきっかけだった。「兄ちゃんが死んだときずっと泣いてた」と話すトメは、誰よりもゆきの気持ちがわかったはず。だからこそ、そっと見守っていたのだろう。
ゆきの答えは終わらせることだった。「看護婦にならないという覚悟」は、自分自身を見つめ、患者のために出した結論だった。それはゆき自身のためでもある。ゆきは「私は人の生き死にに関わる仕事ができる人間じゃない」と自覚した。それを教えてくれたのは小野田だ。看護実習はゆきの人生の指針になった。
ゆきがお宮で聞いた天の声。存命中のナイチンゲールが語りかける「看護ほどどんな人間かが問われる仕事はありません」という言葉は、ゆき自身の心の声だったのかもしれない。
ゆきを演じた中井友望は感情表現の多彩さが特筆される。大粒の涙をこぼしながら思いを吐露する演技は、思わず引き込まれる迫力があった。「人の生き死に」に揺れるゆきは、『ベイビーわるきゅーれ』で演じた、表情を変えず淡々と死体を処理する業者の宮内と180度異なっており、あらためてそのギャップに驚かされる。
中井にとって役者は天職にちがいない。今作のゆきが、進んで行った道の先で、かつての仲間と再会する日が来ることを願うばかりだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK