『名探偵コナン』は警察をどう描いてきた? 『ハイウェイの堕天使』でも描かれた“光と陰”
『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』
しかし『名探偵コナン』シリーズが描いてきたのは、こうしたポジティブな側面ばかりではなく、警察という組織の暗部にも触れられている。とくにその色が濃いのが第4作『瞳の中の暗殺者』だ。
同作は警察官が次々と狙われる事件が発生し、警察の内部に犯人がいるのではないかと疑いの目が向けられるというストーリー。そこでは警察内部の不祥事を隠すための「Need not to know」という符丁が何度も登場し、不信感が煽られると共に、警察の秘密主義が強く印象付けられるのだった。
『名探偵コナン ゼロの執行人』
さらに警察の持つ権力の危うさを正面から描いた作品としては、第22作『ゼロの執行人』が挙げられる。とある事件の容疑者として毛利小五郎が逮捕されるという展開で、その裏には公安警察の秘密組織「ゼロ」の存在や、安室の判断が深く関わっていた。
安室は国を守るためなら、一般市民の人生を左右することも躊躇しない。正義のために動く組織が、個人にとって理不尽な力として立ちはだかるという構図だ。
もちろん同作は、公安を単純な悪として描いているわけではない。安室は国家の安全を守るために動いており、その行動にも揺るぎない信念がある。コナンが「安室さんって彼女いるの?」と尋ねた際、「僕の恋人は、この国さ」と答える場面は、その自己犠牲の精神を端的に示している。
だからこそ、同作の描写は複雑だ。警察は正義のためにどこまで強引な手段を取ることが許されるのか……。コナンと降谷の対立は、その問いを観客に突きつけていた。
『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』
では最新作の『ハイウェイの堕天使』は、こうした流れのなかでどう解釈できるだろうか。結論から言うと、警察の正義や絆の強さを描きつつ、その危うさについても触れるというバランス感の良い作品になっているように思われる。
同作のメインキャラクター・萩原千速は神奈川県警の白バイ小隊長で、正義感の強さが特徴。冒頭では事件の巻き添えになりそうになった小さな女の子を、身を挺して救い出してみせるのだった。さらに終盤では、命懸けのバイクアクションによって悲劇を防ぐシーンも描かれている。人知れず市民を守るプロフェッショナルとしての格好良さを体現したような人物だ。
他方で千速は、弟の研二やその親友・松田の殉死という過去を背負ってもいる。彼らから受け取った想いこそが、千速を英雄として羽ばたかせるための翼となるのだ。横溝重悟との関係も含めて、同作が血の通った人間としての警察官を描いていることは疑いないだろう。
その上で同作では、千速と同じ警察組織の人間が犯人の座に据えられてもいる。しかもその人物は根っからの悪人というわけではなく、ひょんなことから悪の道に転がり落ちていくのだった。そして警察内部に犯人がいたからこそ、事件は大規模で危険なものになってしまう。
つまり同作はたんなる正義の味方として警察を描くばかりではなく、一歩間違えると危険な存在になりうるという側面も直視しようとしている。黒いバイク・ルシファーの存在は、その危険性の象徴だ。
こうした絶妙なバランス感覚に基づいているからこそ、『名探偵コナン』の警察描写には深みがあるのではないだろうか。今後も作中で警察が活躍する際には、その多面性に注目してみてほしい。
■公開情報
『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』
全国公開中
キャスト:高山みなみ(江戸川コナン役)、山崎和佳奈(毛利蘭役)、小山力也(毛利小五郎役)、沢城みゆき(萩原千速役)、三木眞一郎(萩原研二役)、神奈延年(松田陣平役)
スペシャルゲスト:横浜流星、畑芽育
原作:青山剛昌
監督:蓮井隆弘
脚本:大倉崇裕
音楽:菅野祐悟
主題歌:MISIA「ラストダンスあなたと」(Sony Music Labels Inc.)
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会