『風、薫る』養成所編は『虎に翼』明律大学編と重なる? 個性豊かなキャラが生む“衝突”
原嶋凛演じる工藤トメは弱冠20歳で、青森の津軽から上京してきた農家の娘だ。表情にどこかあどけなさを残しているが、誰よりも空気が読め、状況に応じてうまく立ち回るしっかり者の片鱗も見え隠れする。見知らぬ土地で勉学に励んでいる、みんなのムードメーカーとくれば、キャラクターとして近いのは朝鮮半島からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)だろう。視聴者からも“ヒャンちゃん”と呼ばれ、親しまれた彼女のように、トメもお茶の間に愛されるキャラクターへと成長していく未来が見える。残るは、中井友望演じる子爵の娘・東雲ゆき(中井友望)だが、『虎に翼』にはこのタイプの人物はいなかった。ただし、ナイチンゲールを信奉し、折りにつけてその魅力を熱弁する彼女は、寅子たちが女子部卒業後に進学した法科で出会う轟太一(戸塚純貴)に匹敵するキャラの濃さだ。
一人ひとり個性の強い彼女たちは入学早々、激しく反発し合う。『虎に翼』では、男装の山田よね(土居志央梨)が入学してしばらくは孤高の存在を貫いていたが、他の同窓生たちは特に揉め事を起こさずに過ごしていた。養成所のメンバーはより自己主張が激しいため、ハラハラさせられることも多く、そこが両作品の大きな違いではないだろうか。
また共通点で言えば、りんと直美のキャラクターや関係値は、寅子とよねを彷彿とさせることも。特に直美が抱える背景や性格は、よねのキャラクターを意識したものになっているように思う。養成所へ入学するにあたって、日本髪が当たり前の時代に髪を切ってきた点や、一人だけ色のない質素な着物を着用しているところも非常に象徴的だ。どちらも時代に迎合せず、馴れ合いを嫌い、世の中のあらゆる理不尽に対して怒りを抱えるキャラクターである。対して、りんは寅子ほどの“チャキチャキ感”はなく、むしろおっとりとした印象だが、意外と大胆で物事を強引に進めることも多い。その点で寅子と似ており、有無を言わせない笑顔で直美を自分のペースに巻き込んでいくところなんかはそっくりだ。りんと直美も、寅子とよねのようにぶつかり合いながら唯一無二の友情を築いていくのだろう。
看護師にしても女性法曹にしても、時代を先取りする生き方は往々にして反発を招くもの。女子部法科は、同じ大学内の男子生徒たちから“魔女部”と揶揄され、法廷劇でも妨害を受けていた。看護の先生・バーンズ(エマ・ハワード)にシーツ交換や校内の掃除ばかりさせられているりんたちもまた、女学校の生徒から女中のような扱いを受けている。特に女学校から養成所に転入したゆきは元同級生たちから集中砲火を浴びがちで、その度に曇っていく表情が気がかりだ。また多江は看護の勉強を嫁入りの一環としてしか捉えられていない父に縁談を進められる。『虎に翼』では、涼子が家を守るために結婚、香淑が日中戦争の勃発に伴って母国に帰国するなど、寅子の仲間たちが様々な理由で一人、また一人と志半ばで法曹の道から去っていった。看護婦養成所の同窓生からもいずれ脱落者が出るのだろうか。『虎に翼』の「名律大学編」とも比較しながら、「看護婦養成所編」の今後の展開に注目したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK