『風、薫る』は日本の“看護の一歩目”を教えてくれる “何万人”をも救うために必要なこと
「りんさん、家族をコロリで亡くしていますね?」
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第28話では、りん(見上愛)たちが掃除や裁縫ばかりの授業から、コレラの患者の着替えをする実践的な授業へと移った。患者に扮したトメ(原嶋凛)が苦しそうに咳をすると、りんは「大事!?」と顔を近づけた。冒頭のセリフは、そんなりんに講師である看護指導の教師・バーンズ(エマ・ハワード)がかけた言葉である。
これまで、りんは養成所の人たちに信右衛門(北村一輝)のことを話したことはなかった。日本に来たばかりのバーンズにはなおさらだ。それどころかバーンズは余計な話は一切せずに、ひたすら「それは看護ではありません」を繰り返し、りんたちに“清潔”を保つことを体で教え込んできた。なのに、どうしてりんの個人的なことが分かったのか。
その答えとしてバーンズはただ一言、「observation」と答えた。また、「観察」である。バーンズはさらに、りんの行動について「患者は家族ではありません」と注意し、「恥ずかしい」と断言した。直美(上坂樹里)はその言葉に反発し、恥ずかしいとはどういうことかと尋ねたがバーンズは答えなかった。さらにバーンズによれば、りんは「大勢の人たちを見捨てた」という。
今回ばかりは、りんも耐えきれずに、「何が看護で何が看護ではないのか教えてほしい」と胸の内を訴えた。それでも返ってきたのは、「think」という一言だった。
バーンズはいつも、具体的なやり方やその指導の意図を話さない。毎日テキパキとシーツを変え、細かいところまで掃除し、伝統を無視してまで結い髪をほどいて毎日洗髪してまとめる。どうしてそうするのか、どういう意味があるのか、それをひたすらに「考える」ことに意味があるのだという。しかもそれを厳しい表情で「think」と言うだけで伝えてくるから、養成所のメンバーたちとバーンズが衝突することも増えていた。
意気消沈するりんを、仲間たちは夕食のおかずを分けることで励ましていく。誰も歩んだことのない道を切り開いていくのは大変なことだ。こうした励ましがあるから、めげてもまた前を向いて頑張っていける。一方で直美はりんの“寄り添いすぎる”ところを気にかけて「自分の親、看病するように看病してたら、きっとりんさん、すぐに死んじゃうよ」と心配し、「環ちゃんにもそう看病してほしい?」と問いかけた。
りんも何度か指摘してきたが、直美は自分を不幸に見せたがるところがあり、“自分”を中心として周りや環境を蔑み、非難することが多かった。しかしこの日の直美の言葉はりんのためを思って出たものであり、りんの経験してきたことや立場を想像して、彼女に伝わりやすい言葉が選ばれていた。とても大きな成長だ。その上で、りんを励ます意味も含めて「わたしは家族がいないから、あなたよりこの仕事、長く続けられるかも」と焚き付けるところがとても直美らしかった。
りんは、この直美の言葉を受けて気持ちに変化が起こったよう。次の日、同じように患者の着替えの実習に挑んだりんは、バーンズから「これが看護です」と合格をもらう。
りんが意識したことは、「患者さんを清潔に心地よく着替えさせること」、そして「訓練を受けた看護婦として、また、自身を大切に思ってくれる人のため、自分自身が感染しないように努めること」。これらのことは、“看護を職業とする者”としての大切な心構えであると同時に、“自分を大切にする”方法でもある。バーンズの顔もとても満足気だ。
ついに、りんは苦しむ信右衛門の手を取れなかったという後悔を乗り越え、何万人をも救う“看護の手”を手に入れようとしている。でもまだ訓練は続く。これからさらに必要とされてくるのは、やはり「observation」の能力なのだろうか。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK