『風、薫る』小林虎之介の再登場が“次”の展開をもたらす りんが選んだ“自分の人生”
娘の環(宮島るか)を取り戻すため、りん(見上愛)がついに奥田家へ乗り込んだ。NHK連続テレビ小説『風、薫る』第19話は、りんが亀吉(三浦貴大)に離縁の意思をはっきりと伝え、自分の未来を自分で選び取ることを決意する。それはこれまで誰かに決められてきた人生に、自分の言葉でけりをつけるということでもあった。
前回、環を連れ去った男が奥田家と関わりのある人物だとわかり、りんは娘を取り戻すため栃木へ向かう。そこで虎太郎(小林虎之介)と再会するのだが、顔を見た途端、りんは倒れ込みそうになる。張りつめていた気持ちが一気にほどけたのだろう。東京で生きるだけでも大変だったりんにとって、娘を奪われたことがどれほど重かったのかが、その一瞬からもよく伝わってきた。
虎太郎の話では、奥田の店は相変わらず繁盛している一方で、亀吉は酒を飲んでは荒れているという。店はにぎわっていても、奥田家の中が落ち着いているわけではないのだろう。そんな話を聞いたうえで、りんは虎太郎が「俺も一緒に行く」と言っても、ひとりで奥田家へ向かうことを選ぶ。自分の問題として、きちんと向き合おうとしていることが伝わる場面だった。
奥田家へ乗り込んだりんの前にいたのは、亀吉と貞(根岸季衣)、そして環だった。ようやく娘の姿を見つけたりんにとって、その再会は大きかったはずだ。だが、安心できたのも束の間、りんが離縁したいと伝えると、亀吉は離縁は構わないが、環は渡さないと言う。つまり亀吉は、りんとの夫婦関係は終わっても、環だけは手元に置くつもりなのだ。りんを連れ戻したいがために環を離さないのだとすれば、その態度はあまりにも身勝手だった。
それでも、りんは引き下がらなかった。環を連れて帰れないのなら、自分もここを動かないと伝え、亀吉にまっすぐ向き合う。そんなりんがはっきり口にしたのが、「私、ナースになります!」という言葉だった。だが、亀吉はいつも通りだ。亀吉にとっては女が自立して稼ぐことは気に入らないものなのだ。それでもりんの決意は揺るがない。父を救えなかったこと。熱を出した環に何もしてやれなかったこと。助けを必要としている人に手を差し伸べられないまま、つらい思いを抱える人がいること。そうした経験の積み重ねが、りんをこの決意へと向かわせたのだろう。この言葉には自分の力で生きていくのだという、りんの強い意思が込められていた。
貞が「環はくれてやれ」と言い放つ場面だけを見れば、あまりにも冷たい。だが、その裏では貞が環のために小魚の佃煮を作っていたことも描かれる。厳しく突き放しているように見えても、環への思いが消えたわけではないのだ。去り際に、りんは「今までお世話になりました」とだけ伝える。恨みや怒りをぶつけるのではなく、最後まで礼を尽くして奥田家を出るところに、りんなりのけじめが見えた。環を連れて家を出ることは、娘を取り戻すだけでなく、これまでの人生に区切りをつけることでもあったのだと思う。
そして最後、帰ろうとするりんを虎太郎が引き止める。奥田家との一件に区切りがついたからこそ、2人の間で交わされる言葉が次の展開につながっていきそうだ。第19話は、環を取り戻すだけでなく、りんがこれまでの人生にけじめをつける回でもあった。過去と向き合ったりんが、この先どんな道を選んでいくのか。その続きを見届けたくなる終わり方だった。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK