『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の巧みな反芻構造 交差する佐藤&高木、降谷零の軌跡

降谷零と、彼を動かす“不在の友”たち

 過去の因果と戦っていたのは、佐藤や高木だけではない。本作におけるもう一つの巨大な感情のうねりは、首輪爆弾をつけられ、隔離された地下シェルターで身動きが取れずにいた降谷零の存在にある。

 圧倒的な身体能力と頭脳を持つ彼が、本作では大部分において受け身の状態で地下に留まり続ける。それは一見すると歯がゆい状況だが、実は彼が抱える深い孤独と強さ(そして公安としての怖さも)を強調するために重要だったように感じる。なぜなら暗い地下室でただ一人、彼を突き動かしていたのは、3年前に同じ爆弾魔・プラーミャと死闘を繰り広げた、今はもうこの世にいない松田、萩原、伊達航、諸伏景光という4人の親友たちの記憶なのだから。

 すでに友はいない。それでも彼らが繋いだ「命のバトン」と、プラーミャに残した傷跡(手がかり)は、残された者たちに受け継がれている。友の死を背負いながら、国を守る降谷。彼の戦いは徹底して孤独だが、その精神の傍らには常に4人の親友が息づいていて、決して孤独ではないことを教えてくれる。

 ここでも「揺れる警視庁」が反芻する。犯人に手をかけさせず、目を覚ましてくれた高木に対して「(松田を)忘れさせて」と言った佐藤。そんな彼女に「それが大切な思い出なら忘れちゃダメです……人は死んだら、人の思い出の中でしか生きられないんですから……」と語りかけた、かつての高木の言葉が静かに重なっていく。過去の傷を無理に消し去るのではなく、思い出と共に現在(いま)を生き抜く強さ。それこそが、降谷や高木たちが体現している、本作に通底する優しくも逞しいメッセージなのだ。

 過去の因縁に決着をつけるため、大人たち(警察関係者)が文字通り血を流し、命を削って奔走した本作。その大団円を飾ったのが、未来の象徴である子どもたち……「少年探偵団」の活躍であるという事実が、この物語をどこまでも温かく、希望に満ちたものにしている。

 渋谷の街を飲み込もうとする巨大な爆発の液体を食い止める、巨大なサッカーボール。従来の映画ではコナンがたった一人で「いっけー!」と叫ぶこのセリフを、本作では少年探偵団の子どもたち全員が、街を、そして大人たちを救うために声を揃えて叫ぶのが印象的なのだ。

 それが単なる掛け声ではなく、過去の悲しみや喪失を乗り越えようともがく大人たちへ向けられた、純粋で無垢な「未来への祈り」のように聞こえたのは、きっと私だけではないはずだ。

◼️放送情報
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』
日本テレビ系にて、4月17日(金)21:00~22:54放送
声の出演:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、古谷徹(安室透)、高木渉(高木渉)、湯屋敦子(佐藤美和子)、緒方賢一(阿笠博士)、岩居由希子(吉田歩美)、高木渉(小嶋元太)、大谷育江(円谷光彦)、林原めぐみ(灰原哀)
ゲスト声優:白石麻衣(エレニカ・ラブレンチエワ)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:満仲勧
脚本:大倉崇裕
音楽:菅野祐悟
©2022 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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