『名探偵コナン 隻眼の残像』は挑戦作であり原点回帰でもある “喪失”をめぐる普遍的テーマ

 そして『隻眼の残像』のメインテーマは“大切な人の喪失と愛情”だ。毛利小五郎、上原由衣は作中で大きな喪失を経験することとなり、諸伏高明は作中で実弟であり亡くなったはずの景光ととある形で対面することとなる。自身が愛する大切な存在を失うことで、その愛がより鮮明になる。そもそもが常に殺人事件というシビアでシリアスな題材を取り扱い、人の生死を描き続けている『名探偵コナン』というシリーズにおいて、大切な人の喪失というのは不変のテーマでもある。コナンがシリーズ中においてたとえ殺人犯であろうとも殺さずに捕まえることを信条としているように、あるいは『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』において犯人が愛する人を亡くすことのつらさを説いたように。

 振り返れば特に初期の劇場版『名探偵コナン』は常にコナンが蘭をなんらかの窮地から救うことがお決まりとなっており、この部分においても自身にとっての大切な存在=蘭を失わないためにコナンは常に奮闘しているという意味で“大切な存在の喪失”は『名探偵コナン』のテーマを表しているといえるのではないだろうか。『隻眼の残像』は『名探偵コナン』という作品のテーマにおける根幹に今一度挑む作品にもなった。

 上記したメインキャラクターのチョイスにおける新しいアプローチと、メインテーマにおける原点回帰。相反するようでどちらも挑戦的な試みであり『名探偵コナン』が国民的なアニメシリーズ作品として常に新作が歴代興行収入ランキングで上位に君臨し続ける中でもこのチャレンジを絶やさない制作スタイルこそが、ヒットの秘訣なのかもしれない。

 もちろん今作もコナンの名推理、少年探偵団や灰原哀によるサポートや阿笠博士によるダジャレクイズ、魅力的なオリジナルキャラクターまで『名探偵コナン』映画定番の要素は欠かしていない。全体を通してハードボイルドな作風となったからこそその反動でいつになくぶりっ子キャラを演じかわいげを振りまくコナンや、科学者としての片鱗を覗かせる灰原など、まだまだ見どころにあふれている『隻眼の残像』。ぜひ『ハイウェイの堕天使』とともにチェックしてほしい。

■放送情報
『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』
日本テレビ系にて、4月10日(金)21:00~23:14放送
※本編ノーカット/初放送
声の出演:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)、林原めぐみ(灰原哀)、高田祐司(大和敢助)、速水奨(諸伏高明)、小清水亜美(上原由衣)
ゲスト声優:山田孝之(大友隆)、山下美月(円井まどか)
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:重原克也
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
©2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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