『月夜行路』麻生久美子が体現した“息苦しさ” 波瑠との出会いで動き出す新感覚ミステリー

「数時間前に知り合った彼女となぜか私は西へと向かっている――これが人生を変える旅だと知るのはもう少し先の話だ」

 このモノローグが、その後に待ち受けるあまりにも唐突な展開を先取りしていた。日本テレビ系水曜ドラマ『月夜行路 -答えは名作の中に-』第1話は、家庭にも人生にもどこか置いていかれているような感覚を抱えた女性が、ひとりの“文学オタク”と出会ったことで、思いもよらない旅へと連れ出されていく物語だった。ミステリー、ロードムービー、文学案内といった要素が詰め込まれているが、初回でいちばん強く残ったのは、沢辻涼子(麻生久美子)の抱える、どうにも言葉にしづらい息苦しさだったように思う。

 大学生の娘は家事をせず、高校生の息子はろくに会話もしない。夫の菊雄(田中直樹)は帰りが遅く、ようやく帰宅したかと思えば、女性からの電話に気を取られてまともに向き合ってもくれない。どれも極端な不幸というわけではない。だが、壊れてはいないが、満たされてもいない。その中途半端な空白が、涼子の心をじわじわと削っていることが伝わってくる。そんな日々のなかで、彼女がふと思い返してしまうのが、学生時代の恋人・カズト(作間龍斗)の存在だ。

 同世代の男性が、今さらまっすぐ愛情表現をすることなんてそう多くない。ルナのその指摘は、ある意味ではもっともだ。けれど、それでも涼子の心が満たされないのは、夫が冷たいからというだけではない。かつて自分を強く揺らした恋の記憶が、今の現実を測る物差しになってしまっているからだろう。銀座のバー「マーキームーン」のママ・野宮ルナ(波瑠)は、そのことをあっさり見抜いてしまう。家族構成も、夫の仕事も、そして涼子が胸の奥に押し込めてきた未練までも、観察眼と文学的感性で次々と言い当てていくルナの存在は、いかにもフィクションらしい強さを持ちながら、不思議と浮いていない。

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