実写版『ONE PIECE』原作の先取り展開はなぜ起きた? 未来を描く制作陣の“覚悟”

 それが、シーズン3での登場が予告されれているルフィの兄、ポートガス・D・エースの存在へと響いていく。漫画やアニメでその展開を知っている人にとって、「待ってました」といった感慨がより強く表れるエースの登場前に、明かしておいた意味も分かるだろう。すでに描かれていることを先取りして情報として散りばめ、ファンを喜ばせたい作り手側の意図があってのスピーディな描写なのかもしれない。

 同時に、エースというキャラを改めて『ONE PIECE』という物語の核に近づける意味もあったのかもしれない。その出自が仄めかされることで、弟の面倒見が良く、所属している白ヒゲ海賊団の船長、エドワード・ニューゲートを心から慕っている陽気な海賊といったポジションから一段上がった存在となって、物語に影響を与え続ける。そして、マリンフォードでの"あの場面”を迎えた時、深まっていた思い入れが一気に爆発する。そんな効果を狙ったのだとしたら、絶対にそこまで作ってやるという意思は相当に硬そう。あとは期待して待ち続けるしかない。

 ミス・オールサンデーのシーズン2冒頭からの登場は、ミステリアスな彼女をより多く見せることになる。それにより、すでにその正体も含めて知っている旧来からのファンを楽しませると共に、ドラマから入ってきた人も引き付けようとしたのかもしれない。

 漫画やアニメでは、バロックワークスに支配されていたウイスキーピークから出航しようとするゴーイングメリー号に突然現れ、悪魔の実の能力を見せつける。ドラマではルフィたちがローグタウンに着くより先に登場して海兵たちを全滅させる。その登場シーンの美しさは、シーズン2を通しても屈指だ。

 それだけの持ち上げぶりでミス・オールサンデーに強烈な存在感を与えたことが、後々にその目的が明らかにされ、正体も分かり、そして、麦わらの一味との長い長い付き合いへと繋がっていく物語の中で意味を持ってくるだろう。ただの悪役ではないということを、早めに見せておくのはバルトロメオとも共通だ。そうした意図は、もしかしたら道化のバギーにも込められているのかもしれない。

 ローグタウンでルフィと再会したバギーは、漫画やアニメではロジャーを処刑した台の上に上がったルフィを押さえつけ、首を斬ろうとして失敗する。ドラマでは、そこに至る過程でルフィの愚かさを蕩々と説き、海賊王になりたいと訴えるルフィを「分かっちゃいねえな、海賊王になるってことがなにひとつ。お前はなれねえ」と否定し、首を斬ろうとする。

 捕まえたルフィにバギーは言う。「この世で一番強えのは、武器でも悪魔の実でもまして夢でもねえ、強えのは物語だ」。そして終わりを宣言したはずのルフィの物語が、死んだと覚悟しながら笑ってみせた後にしっかりと続いて進み始めた。これこそが、『ONE PIECE』という物語をしっかりと先まで繋げてみせようとする作り手側の思いの表れなのかもしれない。

 ドラマのシーズン2が始まる直前、原作者の尾田が『ONE PIECE』の正体やルフィの存在についての何かを紙に書き、651メートルの海の底に沈める映像が配信された。そこに行けばすべてが分かる真実という“お宝”が明かされる時、ルフィたちは“ひと繋ぎの大秘宝”というとてつもないお宝を手に入れる。それは同時に、すべてのファンが『ONE PIECE』という至宝を手に入れる瞬間でもあるのだ。

■配信情報
Netflixシリーズ『ONE PIECE』シーズン1〜2
独占配信中
出演:イニャキ・ゴドイ(モンキー・D・ルフィ役)、新田真剣佑(ロロノア・ゾロ役)、エミリー・ラッド(ナミ役)、ジェイコブ・ロメロ(ウソップ役)、タズ・スカイラー(サンジ役)、イリア・アイソレリス・ポーリーノ(アルビダ役)、ジェフ・ウォード(バギー役)、マイケル・ドーマン(ゴールド・ロジャー役)、チャリスラ・チャンドラン(ミス・ウェンズデー役)、ダニエル・ラスカー(Mr.9役)、キャムラス・ジョンソン(Mr.5役)、ジャザラ・ジャスリン(ミス・バレンタイン役)、デヴィッド・ダストマルチャン(Mr.3役)、ソフィア・アン・カルーソ(ミス・ゴールデンウィーク役)、レラ・アボヴァ(ミス・オールサンデー役)
シーズン3共同ショーランナー・脚本家・製作総指揮: ジョー・トレイス、イアン・ストークス
シーズン2共同ショーランナー・脚本家・製作総指揮: マット・オーウェンズ、ジョー・トレイス
エグゼクティブ・プロデューサー:尾田栄一郎(原作者)、マーティ・アデルスタイン、ベッキー・クレメンツ(トゥモロー・スタジオ)、藤村哲哉、クリス・シムズ、スティーヴン・マエダ
製作:トゥモロースタジオ、Netflix
©尾田栄一郎/集英社

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