ティモシー・シャラメの魅力は“繊細”だけではない 『マーティ・シュプリーム』はハマり役に

 閑話休題。ともかく、シャラメという人間は、決して「繊細」なだけではない。その内面にはものすごい情熱、自信、向上心があるはずだ。そして本作『マーティ・シュプリーム』は、シャラメのこういった部分を見事に引き出している。

 サフディ兄弟の映画の特徴の一つは、とにかく画面が暑苦しいことだ。狭い空間でブチギレる登場人物をアップで捉え、体臭までも匂ってきそうな画を作り出す。今回も顔面のアップが多く、登場人物たちの汗や荒れまくった肌を鮮明に見せる。そんな中で、シャラメはひときわテンション高く暴れまくる。彼が演じるマーティは、自分が成り上がることしか考えていない。それも「慎重に計画を積んで……」ではなく、ひたすらにアドリブのみ。その場でウケのいいことをブチかまし、後で帳尻を合わせるために奔走するタイプである。そのわりにカッコ悪いことはしたくないし、ビッグマウスであるし、欲望と衝動に忠実なので、せっかく合いかけた帳尻を自分でブチ壊してしまうこともしばしば。一人相撲で土俵際な人生が全編にわたって炸裂。これまでのシャラメの繊細なイメージと正反対の役だが、その無計画&間違えた行動力の塊っぷりを活き活きと表現している。

 一方で、これまで培ってきた「繊細」な面を上手く使っているから、これまた心憎い。主人公のマーティは確かにムチャクチャで、人間としては完全にダメな部類に入る。ところが、その大前提が中盤以降に裏返り始める。周りの登場人物たち、特に(マーティも大人だが、あえて言うなら)マーティを取り囲む大人たちが、もっとダメな部分を見せ始めるのだ。やがて悪い大人たちに虐げられる純朴な少年、この構図が完成すると、いよいよ映画はシャラメの独壇場と化す。そしてクライマックスの卓球の試合は、まさに映画のマジックを体感できる時間だろう。散々にダメなことをしまくっていたマーティと、ある意味で清廉潔白を絵に描いたような人物の対戦なのに、なぜかどちらも応援したくなるのは驚異だ。

 シャラメも何だかんだで御年30歳である。俳優として、人間として、脂が乗ってくる年齢だ。『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、そんなシャラメにさらなる期待を抱くことのできる快作だと言っていいだろう。順風満帆な若手スターの激しいつまずきをリアルタイムで何人も目撃した人間としては、最近の彼の言動に少しの不安もありつつも、ともかく、これからのシャラメにも注視していきたい。

■公開情報
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリー、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター)
監督・脚本:ジョシュ・サフディ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2025年/アメリカ/英語/149分/原題:Marty Supreme/レイティング:G
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公式サイト:happinet-phantom.com/martysupreme/
公式X(旧Twitter):@martysupreme_jp

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