『国宝』と対照的な『木挽町のあだ討ち』の歌舞伎へのアプローチ 渡辺謙が魅せる“表と裏”

 2月27日から上映中の映画『木挽町のあだ討ち』。直木賞と山本周五郎賞をW受賞した永井紗耶子の同名ベストセラー小説を映画化した本作は、極上の時代劇ミステリーとなっており、後半に向かうに従って面白さが増していく傑作映画だ。

※本記事にはネタバレが含まれています

 江戸時代の木挽町を舞台に、柄本佑が演じる主人公・浪人の加瀬総一郎が、芝居小屋のすぐそばで起きた仇討ちの“謎”を究明していく。父の仇討ちを成し遂げた若侍・伊納菊之助を長尾謙杜(なにわ男子)が演じ、仇討ちされる作兵衛役を北村一輝、芝居小屋に関わるキャラクターを瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也、正名僕蔵、そして渡辺謙らが演じている。

『木挽町のあだ討ち』©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会

 歌舞伎を扱い、渡辺が出演しているという共通点から、映画『国宝』(2025年)を思い浮かべる人もいるだろう。だが、『木挽町のあだ討ち』には『国宝』と大きく違う点がある。それはワクワクしながら楽しめて、観た後の気分がすこぶる上がる、本格エンターテインメント作品であることだ。

 まず、歌舞伎という観点から、2作を比較してみよう。『国宝』は任侠の一門に生まれた主人公・喜久雄(吉沢亮)が、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げていく物語。歌舞伎の才能を開花させるも、自分は歌舞伎役者の“血筋”ではないことに苦悩する喜久雄。一方、歌舞伎名門の御曹司でありながら、“才能”では喜久雄に劣っていることを思い知らされる俊介(横浜流星)。喜久雄と俊介が、それぞれ血筋と才能を追い求める心の痛みを、歌舞伎を通して表現する、胸に突き刺さるような作品になっている。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 そして、一番の見どころと言えるのは、吉沢亮と横浜流星が歌舞伎の女形を実際に演じるために、1年半もの稽古に臨み、美しく妖艶な歌舞伎の舞台を熱演していること。『国宝』は、歌舞伎が中心に置かれた、まさに“歌舞伎の映画”だ。

 片や、『木挽町のあだ討ち』における歌舞伎の扱いは、あくまで仇討ちの背後で描かれるものとなっている。だが、なくてはならない重要な役割を担っていることも確かだ。映画の冒頭、菊之助(長尾謙杜)は作兵衛(北村一輝)の目を眩ますために、美しい女形として登場。長尾の女形の姿は愛らしく、女性そのものに見える。

『木挽町のあだ討ち』©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会

 さらに、菊之助に協力する人たちは、芝居小屋の木戸芸者や、立師(殺陣師)、衣装方、小道具方、立作者(脚本家)と、歌舞伎の裏方ばかり。渡辺が演じる立作者の篠田金治は、菊之助の仇討ちに必要な“アイテム”を入手するために、なんと役者ではないのに舞台に立ったりもする。このシーンでは『仮名手本忠臣蔵』の名場面を観ることができるが、公式サイトの「本編 歌舞伎シーン解禁映像」の動画でも公開されている。

 もう1点、『国宝』と『木挽町のあだ討ち』の両方に出演している渡辺の魅力について比較する。前者では上方歌舞伎名門の当主・花井半二郎に扮し、後者では前述の通り裏方役だ。『国宝』の半二郎にとって、血を分けた息子である俊介はもちろんかわいいが、自分の跡を継がせるのは、より才能のある喜久雄だと決断する。『国宝』では、そんな歌舞伎界の重鎮を深みのある表情で体現している一方、『木挽町のあだ討ち』では、渋いながらもチャーミングな魅力を醸し出し、後半の“ネタばらし”の語り手を好演している渡辺。どちらにおいても、卓越した演技力で観客を引き付けるが、後者の金治役では楽しさを感じさせ、元気を与えてくれる。

関連記事