『ばけばけ』で再確認する芋生悠の実力 『ソワレ』など名演を堪能できる必見の3作

『ひらいて』

映画『ひらいて』本予告/10月22日(金)全国ロードショー

 『ひらいて』で芋生が演じたのは、たとえ(作間龍斗)の秘密の恋人で、糖尿病を抱える美雪だ。三角関係を描く物語のなかで、最も静かに、しかし確実に緊張を生み出している人物である。

 本作は、優等生で人気者の木村愛(山田杏奈)が、想いを寄せる同級生・たとえの秘密の恋人にまで感情を向けてしまうことで、関係が歪んでいく物語だ。その恋人こそが、芋生演じる美雪。『ソワレ』のタカラが沈黙で物語を支える存在だったとすれば、『ひらいて』の美雪は、もう少し感情の揺れが表に出る人物だ。とはいえ、すべてをさらけ出すわけではない。笑っているのに本心が見えない瞬間があり、優しく受け止めているようでいて、一線を引いているようにも見える。感情は確かに動いているのに、どこか掴みきれない。その曖昧さが、美雪というキャラクターをよりミステリアスな存在にしている。

『ひらいて』©︎綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

 たとえば、カラオケ店で愛が美雪にキスしようとする場面。はっきり拒めば対立は明確になるし、受け入れれば関係は別の段階へ進む。だが美雪は、そのどちらにも振り切れない。視線をわずかに逸らし、言葉を飲み込み、動くでもなく、完全に止まるでもない。その曖昧な一瞬が、2人の距離感の危うさをはっきりと見せている。

 愛に向かって「神様みたいにかわいいね」と言うシーンがある。あの一言に象徴されるように、美雪は特別なことをしていないのに、人を惹きつけてしまう。作り笑いもしないし、相手を操ろうともしない。ただ邪気のない目で相手を見て、静かに言葉を返す。その積み重ねで、いつの間にか愛のほうが美雪から目を離せなくなっていく。その存在感こそが、芋生の演技の引力であり、魅力でもある。

『こいびとのみつけかた』

『こいびとのみつけかた』本予告Long ver《2023年10月27日(金)ROADSHOW》

 芋生の新たな一面が印象に残っているのが、『こいびとのみつけかた』だ。芋生が演じたのは、ヒロインの園子。植木屋で働く青年・トワ(倉悠貴)から一途に思いを寄せられる存在である。

 物語は、少し不器用なトワが園子に恋をし、まっすぐすぎるアプローチを重ねていくラブストーリー。たとえば、トワがコンビニから公園まで木の葉を並べて“道”をつくり、園子を誘い出そうとする場面。普通なら呆れてしまいそうな行動だが、園子は実際にその木の葉をたどって現れる。ここで芋生は、園子を「ちょっと変わった子」として強調しない。大きく驚いたり、照れたりするリアクションを足すのではなく、いつもと変わらない表情と声のトーンで受け止める。だから、木の葉の道を本当に歩いてくるという行動も、奇抜な出来事ではなく「この子ならやりそう」と思わせる説得力が生まれる。園子を特別に見せないことが、かえってこの不思議な関係をリアルにしている。

 園子は一見マイペースで奔放に見えるが、実はとても繊細な人物だ。たとえば、ふと足を止めて風の匂いを確かめるように目を細める瞬間や、木々を見上げて少しだけ表情がやわらぐ場面。大きな動きではないが、そうした小さな反応に、園子の感受性がはっきりと表れている。

 こうした自然体の芝居を、肩肘張らずにやってのけるのが芋生の強みだ。特別な演出や大きな感情表現に頼らず、あくまで等身大で立っている。それでいて、画面に映ると目を引かれてしまう。園子を“演じている”というより、“そこにいる”と感じさせる。その説得力こそ、芋生の演技力の確かさを物語っている。『ソワレ』や『ひらいて』とはまた違うアプローチで、等身大の女性を丁寧に積み上げた芋生の芝居を堪能できる作品だ。

 感情を大きく示さなくても、観客の心を動かせること。泣かせようとせず、驚かせようともしない。それでも胸が締めつけられる瞬間を生み出す。カメラが彼女の顔を捉えたとき、画面の空気がわずかに変わる。芋生は、その変化を確かに感じさせる俳優だ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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