『ばけばけ』はなぜ異色の朝ドラになっているのか “善人”だけにしない物語の特別さ
なぜ我々受け手は、自分の理想に主人公を当てはめようとして、そうじゃないと不満を覚えるのだろう。本来、物語の登場人物にだって自由を認めていいはずだ。ただ、筆者的には、トキは斜に構えた言い方をしているが、やっぱりイセを助けたかったのだと思いたい。それはもしかしたら、ともに川の貧しい側に暮らしたサワ(円井わん)に何もできなかった贖罪だとも思いたい。あるいは、ヘブンの書くネタのために自らが実験材料になったのではないか。まるで、自分を食べてくださいと火に飛び込んだ兎の昔話のように。やっぱり美談を期待するクセが抜けない。
いじましいヒロインの先行例がないわけではない。例えば、『トリック』(テレビ朝日系)の山田奈緒子(仲間由紀恵)だ。彼女は推理力に長けていたが、正義のために事件を解決しているわけではなく、貧困生活から脱するためにやっていただけだった。相棒の上田(阿部寛)もまた正義のためではなく物理学者として自身の頭のよさをひけらかしたい名誉欲のために事件の謎を解き明かそうとする。大義などいっさいないふたりは自分の欲望のためにたまたまふたりで事件を解決し、いつもお互いを小馬鹿にしあっている。そんなふたりだが視聴者になぜかとても愛されていた。筆者はトキとヘブンに、やや山田と上田のようなものを感じる。トキとヘブンはふたりともどこかいじましい。
ほかの登場人物もそうで、クマ(夏目透羽)はイセが呪われていると聞いて、遠い場所に移動する。丈(杉田雷麟)と正木(日高由起刀)はクマのぬくもりの残った場所に座ったら不運が移るなんて迷信だと思いながら、違う場所に座る。誰もが実に小市民的である。世の中、わかりやすい悪人もいないが、わかりやすい正義に満ち溢れた人もいない。いいことしかしないヒトもいなければ悪いことしかしないヒトもいないのだ、たぶん。犯罪者が雨に濡れた子犬を助けるなんてファンタジーだと言われるが、蚊を叩かない犯罪者もいないとは言えない。
錦織(吉沢亮)だって優秀で善人だけど学歴詐称していた。彼らのように、誰だって間違えることはあると思えば、他人の間違いや弱さに寛容になれるのではないか。なんてことを思った第21週。気づけば、あと4週。何があるのかどこにいくのか、トキたちを見守っていきたい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK