『ばけばけ』髙石あかりに求められた“ヒロイン像”とは? 善悪では語れない人間の性

 髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。

 第104話、イセ(芋生悠)の不幸せが乗り移ったと、トキが倒れてしまう。果たして本当に乗り移ったのか、あるいはイセに対する優しさだったのか。

 第105話のラストに描かれた「おイセさんの呪い、今頃来たんかねぇ」というセリフに、「となると、前回は……」と勘繰りたくなるが、制作統括の橋爪國臣は「どっちなんでしょうね」と笑ってみせる。

「一応、演じるに当たってのプランとして、“どっちです”という話は知っていますけど、どっちでもいいかなと僕は思っていて。あまり明かさない方がいい気もするし、どちらもあり得る。物語には正解も不正解もないので、どちらも正解だと思います」

 あくまで捉え方は視聴者に委ねたい。そのためにも音楽に工夫を凝らしたといい、「まったく音楽をつけないと、トキがただ呪いにかかって倒れた、という印象が強くなるんです。一方で音楽をつけて、トキの心情の流れをピークに持っていくことで、わざと倒れたようにも見える。実は音楽で、どちらにも見えるように作っています」と裏側を明かした。

 今回のイセをはじめ、みんなの思いを受け止める“自己犠牲”のヒロイン。そんな描き方もある中で、橋爪が目指したのは“等身大”のヒロイン像。

「トキにはすべてを理解して、周囲に何かをしてあげる、というヒロインにはなってほしくなかったんです。人間は誰しも100%完璧じゃない。『自分が犠牲になればなんとかなる』という考えを持つ子にはしたくないなと、最初からずっと思っていました」

 そんなトキに滲むのは、本作が描き続けてきた、善悪では語れない人間の性。「このドラマの登場人物はそれぞれが結構ワガママだし、トキ自身もワガママなんです。でも、一様にみんな自己犠牲の精神も多少は持っていて、そこはグラデーションだと思うんですよね。『呪われたがりなだけ』という言葉は自己犠牲にも聞こえるし、単なる自分の興味と好奇心から言っただけにも見える。それがどちらかに偏りすぎると、物語としてあまり面白くない気がするんです」

 等身大のヒロイン像は、ヘブン(トミー・バストウ)との夫婦関係にも反映されている。たとえば、本が書けなくなった夫とどう向き合うのか。これまでの朝ドラでは「夫を横で支える献身的な妻」として描かれることが多かったが、橋爪は「この2人の関係性はそうではない」という。

「トキ自身が能動的に(この題材がいいと)気づかせるわけではなくて、彼女の言葉を聞いたことによって、ヘブンが自ら気づいた、という展開が描けたらいいなと。一方のトキとしては、無意識にリテラリーアシスタントの第一歩を踏み出している。そんなふうに見えればいいなと思っていました」

 実際、第104話でトキが倒れたことをきっかけに、ヘブンは「トキサン ココロ スバラシイ」「アナタノカンガエ ワタシヒツヨウ モットモット ネガイマス」と、トキへの信頼を深めていく。

「とはいえ、本当にトキは全部を受け止めて、イセのために倒れたのか。そして、それをヘブンに見せることで、彼の心を動かそうとしたのか。第20週まで描いてきたトキを考えると、いきなりそんな完璧なことができる人物だとは思えないんですよね。逆に、何の考えもなく勝手に起こった出来事をヘブンが見ていただけだとしたら、それがトキである必要もないわけで。やっぱりトキの体を通って見えた現象だからこそ、ヘブンには何か響くものがあった。そんな意味合いで作っています」

 どこまでも人間味あふれる『ばけばけ』のヒロイン像。予告では、そんなトキに“アメリカ行き”の話も出ており、2人の物語はさらなる局面を迎えそうだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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