『キンパとおにぎり』が描く日韓の恋 頼りない赤楚衛二と強気なカン・ヘウォンの化学反応
こういった、暗い面が徐々に顔を出してくる点は、経済格差を若い女性の視点から鋭く可視化した、山内マリコ原作映画『あのこは貴族』(2021年)で、監督を務めた岨手由貴子と、ユーモラスなやりとりで社会のひずみなどを表現してきた劇団「山田ジャパン」の主宰であり、多くのドラマ作品などの脚本を担当している山田能龍の二人が、シリーズ構成を手がけていることが大きいのではないかと解釈できる。
とはいえ、この大河を追い詰めていく兄、印象的には鬼のように感じられるのだが、じつはその意見には、的を射ている部分もある。料理の道で精進していきたいと語る大河に、「最後までやり抜く覚悟はできてるのか」と質問するのだ。そこで大河は、この期に及んで「わからない」と返してしまう。もしもここで、売り言葉に買い言葉だとしても、大河が「ああ! やってやるよ! 俺の人生をこの道に賭けてみるよ」と宣言したとしたら、兄の対応は変わっていたのではないのか。
この、どうしても自信が持ちきれない大河のキャラクターには、いまの日本の若い男性の多くに共通する問題を見出すことができる。それは、“一人前にならないと結婚ができない”という、日本で終身雇用が当たり前で経済的に豊かだった頃の古い規範と、それに反する、“現代の社会では非正規雇用者が数多くいてなかなか生活に余裕が持てない”という、板挟みのような状況だ。かつての理想に、生身の若者たちが到達できなくなっているのである。
もちろん、大河やアニメーション作家を目指すリンがそうであるように、若者たちは時代に応じて自分自身に価値を持とうとすることができる。しかし、そういう価値観に対して、周囲の人々全てが同調してくれるわけではない。古い規範に従って、夢を追う若者に否定的な意見をぶつけるケースは少なくない。そしてそれが、善意や心配に基づく感情から出てきていることが、かえって大河やリンのような人々を傷つけるのである。
そして、こういった自信のなさは、予定では韓国に帰国することになるリンのことを、大河が引き止める障害にもなってしまう。ムン・ジフが演じている、リンの友人のジュンホは、大河よりも頼りがいのある姿を見せ、この種の問題を際立たせているといえよう。
もちろん例外も多いが、韓国の恋愛ドラマにおいて、ヒロインを愛する男性役は、日本に比べてより理想化され、女性を一途に守ろうとする王子様のようなイメージで描かれることが少なくない。それは、いい意味ばかりでなく、韓国社会の方が性別の役割の規範がやや強いといった保守性からくるのかもしれない。
韓国において日本の男性俳優は、そうした基準からいえば理想には物足りないのかもしれないが、韓国社会における男女の規範に疲れている人からしてみれば、新鮮で魅力的に感じる場合もある。赤楚衛二は、その代表的なイメージだといえるのではないか。
しかしそんなイメージが、付き合っていくなかでリンに“物足りなさ”をおぼえさせてしまうというのが、本シリーズの試みであるのだろう。仕事第一で恋人に関心をあまり払わなかったり、記念日を重要なものと考えてなかったり、たまには強引にでも引っ張ってほしいという、パートナーに対する女性側の不満は、日本人の男性俳優のイメージのネガティブな面を際立たせているように感じられる。
だが、リンの方に課題がないわけでもない。彼女は、自身がアニメーション作家になりたいという夢を守るために、より長く日本にとどまりたいと考えている。大河が自分を“強引にでも”引き止めることは、彼女が夢のために“退路を断つ”ことに繋がる。そのように考えれば、リンは自分自身で夢への道を進もうとせず、重要な選択をパートナー任せにしてしまっている、ずるい部分があると結論づけることもできるのだ。
であるならば、彼女もまた自身の成長のために、自立した精神を持って周囲の規範にこだわらずに大河と向き合う姿勢が必要なのではないか。もちろん、そんなリンの課題に対しても、大河はパートナーとして応援する必要があるだろう。お互いに弱い部分があることを認め、それを補い合っていく……。そうした境地に達してこそ、二人は真の意味でのパートナーになれるはずである。
果たして大河とリンは、こうした文化の違いが際立たせた、お互いの課題を乗り越えていくことができるのか。それとも、このドラマは解決することが難しい課題を、多くの人々が持つ心の問題として突きつけようとするのか。残ったエピソードの展開が気になるところだ。
韓国と日本それぞれの文化を、食を通して紹介するという意味では、Netflix配信の『隣の国のグルメイト』も、意義深い番組だ。両国は歴史問題や政治的な摩擦により、お互いにたびたび衝突したり、偏見を持ち合うこともある。しかし、アイドルや俳優人気、ファッションや食を含めて、文化レベルでの交流が、さまざまな世代においてポジティブで融和的なムードを与えていることは間違いない。社会的にも非常に有意義な効果だといえる、こうした両国の試みは、これからさらに増えていってほしいものだ。
ドラマプレミア23『キンパとおにぎり~恋するふたりは似ていてちがう~』
駅伝エースとして名を馳せるも、挫折し小料理店で日々を過ごす大河と、韓国からの留学生リンが偶然の出会いから距離を縮めていく模様を描く。
■放送情報
ドラマプレミア23『キンパとおにぎり~恋するふたりは似ていてちがう~』
テレ東系にて、毎週月曜23:06~23:55放送
Netflixにて、各話放送と同時タイミングから世界独占見放題配信
ネットもテレ東(テレ東HP、TVer、Lemino)にて見逃し配信
出演:赤楚衛二、カン・ヘウォン、ムン・ジフ、深川麻衣、片岡凜、福山翔大、ソ・ヘウォン、パン・ウンヒ、遊井亮子、中島ひろ子、三浦誠己、渡辺真起子、吹越満
シリーズ構成:岨手由貴子、山田能龍
脚本:イ・ナウォン、山田能龍、横尾千智、畑中みゆき
監督:林田浩川、畑中みゆき、小山亮太
プロデューサー:中島叶(テレビ東京)、小嶋志和(テレビ東京)、五箇公貴(BABEL LABEL)、向井達矢(ラインバック)
制作:テレビ東京、BABEL LABEL
製作著作:「キンパとおにぎり」製作委員会
©「キンパとおにぎり」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinpa_onigiri/
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