『ばけばけ』はなぜ“花”を惨めな存在として描いたのか 表裏一体の幸福と不幸

 朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第17週のサブタイトルは「ナント、イウカ」。まさに、なんと言うか、なんと言っていいか難しい展開だった。トキ(髙石あかり)がサワ(円井わん)に持ってきた野の花の花束が祝福の象徴でなく悲しい存在と化す。以前、サワがトキの結婚・引っ越し祝に花を持って訪ねたとき、大きな派手な生け花を見て、こっそり持ってきた花を捨てたことがあった。

 捧げ物あるいは贈り物としてふさわしいイメージを持つ花が、こんなにも惨めな存在として描かれることもなかなかないだろう。花びらが散るように、心が砕ける、花が枯れるように、心がしおれる。サワとトキの花はそんなふうに描かれた。

 トキとなみ(さとうほなみ)は「女子(おなご)が生きていくには身を売るか、男と一緒になるしかない」の言葉通り、男と一緒になって川の向こうに出ていった。ひとり残されたサワの前にも、白馬に乗った王子様的な人物が現れた。錦織(吉沢亮)の友人、半分弱こと庄田多吉(濱正悟)だ。大盤石に及ばないと謙遜して半分弱と名乗っているが、帝大に受かった優秀な人物だった。錦織はなんと帝大に落ち、教員免許を取得していなかった。

 錦織に並ぶ優秀な庄田が東京から松江に帰ってきた。サワは白鳥倶楽部で彼と出会う。ひとりで勉強しているサワの手伝いを買って出て、そのおかげでサワの能力はめきめき伸びていった。周囲はふたりがお似合いだと感じ、当人たちもはじめて一緒に昼餉を共にして、いい感じになっていく。

 偶然、サワと庄田が湖畔を散歩しているのを見かけたトキとヘブン(トミー・バストウ)もふたりを後押ししたい気持ちにかられたようだ。男女交際の経験のない奥手な庄田の心を「おサワ、好いっちょん?」とウマオイの「スイッチョン」の鳴き声とかけて動かそうとする。そこは冗談ながら、トキは真面目に彼に「おサワをお願いします」と託す。

 トキの話を受けて、庄田は一度断った松江中学の教師の仕事を引き受ける。給金は25円。庄田はサワに求婚する。結婚して借金を返して長屋を出ようと。

 夢のようなシンデレラストーリー。サワの瞳にはこれまでになく光が入って星のようになり、かすかに潤んでいた。

 ところが、サワはその求婚を断ってしまう。庄田がうまくやったと思ってお祝いに来たらしきトキにサワはトキのようなシンデレラにはなれないと言う。

「バカだよね私。嬉しいし嬉しかったし、天にも昇るようなというか、天にも昇っちゃったのに。断る理由なんてこれっぽっちもなかったのにつかめんかった。どげしてもつかめんかった。おトキのせいだわ、おトキにはなれん、おトキと同じ道は歩けん。シンデレラにはなれんけん」

 だから、いい話を断ったのは「(庄田が)大好きだったのに」「おトキのせい」とサワはおいおいと泣く。

 なんというか、である。なんでそうなるの? 庄田であれば、結婚しても仕事をやっていいと言ってくれそうだし、とりあえず借金を返して生活レベルをあげて、教師をやればいいではないか。母(河井青葉)も病弱のようだし、母のためにも差し伸べられた手を全力でつかむべきではないか。そうしなかった理由について、制作統括・橋爪國臣チーフプロデューサーはサワのことを、自分の掲げた目標で自分を縛ってしまっている、と説明していた。

 なるほど。そういうことも確かにある。例えば、現代だと、生活保護を受けたくない人をはじめとして、様々なセーフティネットに背を向けて、みすみす不遇な立場を選択してしまうような人たちがいる。手負いの野生の動物が、人間が助けようとしても、歯向かうようなこともある。実体験がないから断言はできないが、とことん追い込まれると合理的に物事が考えられなくなってしまうことはあるもので、サワはそういう一例なのであろう。

 なみも遊郭以外を知らないから怖いと言って尻込みしていた。ドラマに描かれたサワにしてもなみにしても物事を合理的に考え最適解を選択することが不可能な人には見えない。だが実はそういう状況にさらされているわけだ。なみは新聞を読んでトキが幸せになったのを見て決心し、サワはトキが幸せになればなるほど自分は同じことはしないと意地になる。トキとサワが対比になっているのみならず、サワとなみも対比になっている。絶対に他者と同じことをしたくないというサワの気持ちに筆者は共感する。だがそんな筆者ですらこういう場合は庄田の申し出を受けるだろうと思う。

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