『ばけばけ』「おトキにはなれん」が意味するもの 視聴者に委ねられた“幸せ”の形
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第16週から第17週にかけてサワ(円井わん)を中心に描かれてきた“サワ編”は、思わぬ形で幕を閉じることとなった。それは庄田多吉(濱正悟)のプロポーズをサワが断るというものだ。トキ(髙石あかり)は取り乱すサワをただ慰め続けた。
人は物語の結末をハッピーエンドなのか、それともバッドエンドなのかを決めたがるが、この第17週ラスト第85話の捉え方は視聴者一人ひとりに委ねられているように思う。まず、思い浮かぶのはなぜ、サワは庄田の「わしと夫婦になろう」という思いに応え、その手を掴むことができなかったのかだ。
気になるのは、「来月から月25円。それでおサワさんちの借金返して長屋を出よう」という庄田の一言。よかれと思って言った“半分弱”のこの言葉が、天邪鬼なサワの気持ち、プライドを逆撫でしてしまっているように見える。寝たきりの母・キヌ(河井青葉)のことを思えば庄田と一緒になって長屋を出る、“普通”の幸せがそこにはあっただろう。トキやなみ(さとうほなみ)がその道を選び、川の向こう側へと渡って行ったように。
けれど、サワには小学校の代用教員から正規の教員資格を取ろうと真面目に努力をしてきた日々がある。自分が信じて進んできた道、サワの矜持だ。だからこそ、その気持ちを踏みにじるような理解者であり、ライバルでもある庄田の余計な言葉にも、ヘブン(トミー・バストウ)と一緒になり豪邸に暮らすトキにも、うらめしい気持ちが湧いてしまう。大好きなのに。
庄田からの誘いを断った後に、サワが言った「おトキにはなれん」というセリフは、がんじがらめに縛り付けられていたサワがようやく弱音を吐き出し、取り乱すことができたシーンだ。貧しい暮らしから王子様=ヘブンと出会い、みるみるうちにお姫様になったトキは、松江のシンデレラ。その道を歩くことはできないサワは、それ以外の群衆=モブとも例えられるだろう。
ここで印象的なのは、トキが摘んできた野花で作った花束だ。サワが引っ越し祝いにヘブン邸を訪れた時、大きな花瓶に生けられた豪華な花を見て、サワは天国長屋で摘んで行った花束をその場で投げ捨てた。それが2人の隔絶に繋がるきっかけの一つになっていたが、トキは周りから見ればシンデレラであっても、中身は変わっていない、トキはトキのままであることを野花の花束が表している。
取り乱し、トキに全てを曝け出すサワとの構図は、第3週のラストでトキが自身の出生の秘密を知りサワへと泣きすがるシーンと対比になっている。いつもはトキの受け止め役だったサワが、今度はトキに弱い部分を見せることができた。互いに全てをさらけ出せる親友はトキであり、サワだけなのだ。あの時の関係性に戻れたことは2人としては、せめて良かったことと言えるだろう。
振り返れば、トキは自身の出生の秘密を知り、サワへと思い切り取り乱してから、今では松野家、雨清水家ともに、ヘブンを介してなんでも言い合える良好な関係性を築いている。サワもまた取り乱した先に、自分を信じた道の先に、“シンデレラになれなかった人”でも幸せになれる未来があってほしいと願うばかりだ。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK