中村雅俊×鎌田敏夫、映画『俺たちの旅』特別対談 「“懐かしの映画”にはしたくなかった」

中村雅俊が監督に初挑戦

中村雅俊

——今回、監督も中村さんが務めるという話はどの時点で出てきたのでしょうか?

中村:俺は突然言われていますからね。鎌田さんはどこかの時点で決めていたんだろうけど。

鎌田:飲み屋で「やってよ」と。

中村:そうですよね。「お前監督やって」と言われて「えーっ……!」と思ったんだけど、わりと「はい」と即答した記憶があります(笑)。

鎌田:斎藤光正さんが亡くなる前は30年目まで監督をしていたじゃないですか。彼の一番そばにいた人間だから、それで「やってくれ」と言ったんです。

中村:すごい冒険だと思いません? 監督のずっとそばにいて演出もされてきたけど、自分が監督になるというのはまた違うじゃないですか。すごい決断をしたなと。2回くらいテレビドラマでやったことはあるんですが、やはり映画となると大変なことでした。

鎌田:大変だろうなと思う。主演もやっているわけだからね。

中村:でも久々に真剣になりました。当たり前なんですが、やっぱり決定するのは監督なんです。そのときは正解かどうかわからなくて、「1+1=3だ」みたいな判断もしないといけなくて(笑)、3を正解にするための作業をその後にしていかなければならない。こういうことの積み重ねなんだなと、事の重大さをひしひしと感じていました。

——監督として、出演者として今回の物語の大事なところはどんなところにありますか?

中村:「ここです」というのは、あまりはっきりとは言いたくないんですが、シーンごとのテーマはありました。

鎌田:初めての監督だからよくわかるんだけど、「説明」したくなるんですよね。説明しないとわからないじゃないかと。でも「感情」があればストーリーはわからなくてもいいんだと伝えていた。

中村:あえて説明をしすぎない部分はあるんですが、そこは作品を観てくれる皆さんに委ねることにしています。

——中村さんは今回監督も務めていますが、ご自身の演技についてはどのように監督していったのでしょうか?

中村:これは結構反省があるんですが……(笑)、一言で言うと大変でした。健ちゃん(田中健)や秋野さんの芝居に関しては客観的に見てOKなり修正を出せるんですが、自分の芝居に関して言うとどうしてもちょっと甘いといいますか、すぐ「OK」になってしまう(笑)。ところが撮影が終わって編集の段階で自分の芝居を見直すと、「あ、もうちょっとだったな……」と感じてしまうところがちらほらありました(笑)。

鎌田:大変だったと思います。よくやってくれました。

——先ほど鎌田さんは「懐かしいものにしたくなかった」とおっしゃっていましたが、その点は中村さんはどう捉えていましたか?

中村:セリフでも言っていることですが、やっぱり「生きていることの楽しさと、生きていることの切なさ」が大事なこと。『俺たちの旅』は50年前からそうだったんですが、生きていることの楽しさと、その逆の切なさもすごく描かれている。若者3人が50年経ったらいまどんな生活をして、何を考えているんだろうということは、絶対見せたいと思っていました。お客さんの立場になったら、50年前に夢中になっていた自分たちを回顧するというのも必要だと思ったんです。だから同窓会ではないですが、俺たちの姿を見て自分にフィードバックするというか、「あのとき、そういえば自分は50年前に恋をしていて、何をしていた」とか、昔の自分に再会するような体験も悪いことではないなと。普通、回想シーンというと「そういえばあいつさ……」と言ったときにチラッと昔のシーンが出てきてまた現在に戻る。でも今回は回想シーンをたっぷりと見せています。鎌田さんが50年前にすごく素敵なシーンをいっぱい作っているから、それは丸ごと見せてもいいのではないかと。そのほうが感動も蘇ってきますし。

——懐かしさというよりも、積み重ねた重みを感じる瞬間があります。

鎌田:それは彼が監督しないとできなかった。

中村:好きなシーンもたくさんありますし、やっぱり当時の若者たちはあれを観て育ったような気がするんです。あのシーンを観て、あのセリフを聞いて……まあいま思うとハラスメントだらけですが(笑)。でも俺が洋子を本当に殴って「お前、人を裏切るってどういうことかわかってるのか」と。

鎌田:でもあれがあるから洋子があなたに惚れたわけです。

中村:今じゃできない表現がたくさんあったんですが、「軌道を逸れて生きる強さ」はありますよね。「これでいいんだ」と。男のエゴイズムをやろうと。

鎌田:だから最初「女性は観なくていい」と言った。あとで怒られたけど。

中村:普通大学に入ったら考えることは「どこかいい会社に入る」ということですが、もう最初から常識を外して「俺は就職はしないよ」と。もちろんそれで急に人格が変わるとかではなく、そういう過去の間違いや後悔をひっくるめて「やっぱり今があるんだな」と逃げずに向き合っている。もちろん20年後になると「カースケもこのままのカースケではいられないだろう」といったことも描かれてきて、環境や時代とかいったものにどうしても影響を受けて「自分を軌道修正しなきゃいけないかな」と考えさせられる時期もあったんです。

鎌田:映画を観るとわかると思うんだけど、最初のシーンで「なんでこんなことをやるんですか」と言われた。でも思ってもみないシーンでないと、今まで通りの『俺たちの旅』だと退屈するじゃないですか。「これは一体なんだ」と。それを思いつくのが難しかった。

中村:導入がすごくサスペンスみたいな感じですよね。だから映像の撮り方は、たとえば車の走り方にしてもサスペンスにしたんですよ。始まってすぐに「何これ?」みたいに驚かされますが、鎌田さんがそれがすごく大事だと言っていて、「え? これ『俺たちの旅』?」と思わせておいて実は……と続いていきます。

鎌田:最後はこれでもかというくらい『俺たちの旅』になりますから。

中村雅俊×鎌田敏夫にとっての『俺たちの旅』

(左から)中村雅俊、鎌田敏夫

——50年経って、お二人にとって『俺たちの旅』はどういう作品になりましたか? もちろん中村さんの歌手活動だったり、鎌田さんの『金曜日の妻たちへ』(TBS系)だったり『男女7人夏物語』(TBS系)などさまざまな代表作がありますが……。

中村:鎌田さんとはデビュー時からの付き合いですからね。俺が文学座の研究生だったときの公演があって、それを初めて鎌田さんに観てもらって挨拶したのが1973年でしたよね。その後、先ほど話した『俺たちの勲章』の脚本も鎌田さんでした。『俺たちの旅』のときに初めて自分が主役として演じるキャラクターを作ってもらって、「俺はこの世界で頑張ってやっていかなきゃいけないんだな」という自覚が生まれました。デビュー曲の「ふれあい」はすごく売れましたけど、ただそれはたまたまというか一発屋な気もしていて……。でもその後「俺たちの旅」が90万枚近く売れて、事の重大さを自覚してとにかく頑張ってやろうと思ったんです。『俺たちの旅』はいろいろなファクターの寄せ集めでできていますが、何か一つ欠けてもダメだったんです。鎌田さんの本でなければ絶対ダメだったし、キャストだって結果としてこの3人じゃないとやっぱりダメだったし、歌もやっぱり小椋佳さんが作って、俺が歌わなきゃいけなかった。最後のエンディングテーマで「ただお前がいい」が流れると、やっぱりこれじゃないとダメだろうと。

——それで今でもコンサートができて、さらに追加公演まで開催されます。

中村:大変なものだなと思いますよね。国際フォーラムで5000人のキャパなのに、追加公演で売り切れになるんですよ。「誰が買ってるんだ」と(笑)。普段は『俺たちの旅』が話題になることなんてないけど、こんなに愛されてきた作品なんだという実感が沸きました。監督としてもたくさんの人と接するんですが、こんなに『俺たちの旅』が好きな人がいたのか……と。

——鎌田さんにとって『俺たちの旅』はどんな作品ですか?

鎌田:どんな作品でもだけど、自分がやったことがあるもの、人がすでにやっているものはやってこなかった。当たり前なんだけど、『金妻』にしても当時どこもやっていない番組をずっと作ってきたわけです。でも『俺たちの旅』だけは自分がやってきた番組だからちょっと意味が違うんです。だから愛着があるし、50年目はもういっぺんやらないと気が済まなかった。

中村:今回改めて、鎌田さんの“『俺たちの旅』愛”をすごく感じました。結局今回は鎌田さんの一言で始まった話ですから。どういう形でやろうか、具体的にする作業は大変だったと思うんですが、最終的にテレビではなく「映画でやろう」と。

——映画になったのはよかったですね。テレビとは違ってお客さんの熱量を実感できるのではないかと思います。

鎌田:制作費を集めてくれる人がいたり、上映会を開いてくれる人と協力して、大変だったけどいろいろな経験ができて面白かった。軽々しく言っちゃいけないけど、たくさんの人が関わって成り立っている。

中村:あとは鎌田さんの“中村雅俊監督”への心配度(笑)。いろいろな段階で鎌田さんが見てくれたのは本当にありがたかった。普通だったら脚本を書いたら完成品まで見に来ませんけど、もう本当にずっと付き合ってくれていたから。

——いいですね。喧々諤々しながら作っていたわけですね。

鎌田:編集でも余計なこと言ったりして。

——最後に、昔ながらのファン、新たに本作を知った世代の方それぞれに向けて一言お願いします。

中村:『俺たちの旅』は単なる青春ドラマじゃなくて、やっぱり50年後でも変わらないものだと思うんです。なぜって、『俺たちの旅』はずっと普遍のテーマを描いてきたから。つまり「人を愛すること」とか「親ってどういうこと?」「生きるってどういうこと?」みたいなことです。それは50年後だろうが変わらないテーマだと思います。そういうテーマに対して『俺たちの旅』なりに結論を出して、それを一つのサンプルとして「生きるって、こういうことですよ」とか「切ないですよ」「楽しいですよ」と皆さんに示す。それをずっとやることによって、何十年と皆さんに浸透していったのかなと。

鎌田:彼は撮影が終わった後に「切ないドラマですね」と言ってくれたんです。別に切ないドラマを書こうとしてやったわけじゃないけど、結果的に切ないドラマだよね。「切ない」って不思議なことで、切ないとは何かと言われてもわからないこともあるけど、「それぞれの人生が違ったりしてぶつかったりしながら認め合っている」みたいな感覚だと思う。不幸とかかわいそうとか、そういう意味ではまったくない。「泣ける」とかいうのとは違いますよね。

中村:本当ですよね。よくわからないけど「いい切なさ」なんですよね。

鎌田:だって可哀想な奴はいないんだから。

中村:むしろ羨ましいですよね。たとえばオメダが娘(前田亜季)に殴られるのもいいですよね。あの殴られるところは大好きで(笑)。

鎌田:勝手なこと言ってるんだから殴っていいじゃない。「俺は一人の女に捕まるのは嫌なんだ」って。めちゃくちゃなこと言ってるから。

■公開情報
『五十年目の俺たちの旅』
全国公開中
出演:中村雅俊、秋野太作、田中健、前田亜季、水谷果穂、左時枝、福士誠治、岡田奈々
原作・脚本:鎌田敏夫
監督:中村雅俊
主題歌:中村雅俊「俺たちの旅」
配給:NAKACHIKA PICTURES
©「五十年目の俺たちの旅」製作委員会
公式サイト:oretabi50th-movie

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