最新ツアーを映画館で体験 『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』をいま観る意義

 現在の映画音楽界で最大の巨匠の一人といえる、ハンス・ジマー。2025年は、彼自身とオーケストラ、アーティストが演奏する初の日本公演が横浜、名古屋で5月におこなわれ、大いに話題を集めた。その熱が冷めやらぬ7月には、ドバイ公演のド派手なパフォーマンスを映画化した『ハンス・ジマー&フレンズ:ダイアモンド・イン・ザ・デザート』が日本公開され、好評を博したことが記憶に新しい。

 だが熱狂の宴はまだ終わらない。ハンス・ジマーのもう一つのコンサート映画『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』が、日本のスクリーンにやってくるのだ。年末の12月26日から、東京・TOHOシネマズ 日比谷で先行上映され、さらに2026年からも複数の劇場での公開が決定している。

 日本公演や映画『ハンス・ジマー&フレンズ:ダイアモンド・イン・ザ・デザート』を味わった観客・聴衆は、この映画の公開によって、興奮をまた味わえることになるだろう。そして、残念ながら足を運べなかった人たちにとっては、本作『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』の上映は、巨匠ハンス・ジマーの楽曲の数々を、劇場の音響設備による大音量で初めて全身に浴びるチャンスだといえる。

 数々の受賞歴を誇るハンス・ジマーは、ハリウッドを代表する幾多の話題作を、音楽面から支えてきた。『レインマン』(1988年)や『ドライビング MISS デイジー』(1989年)といった作品で注目を集め、『ライオン・キング』(1994年)でアカデミー賞を受賞。『グラディエーター』(2000年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『ダークナイト』3部作、『インターステラー』(2014年)、再びのアカデミー賞受賞となる『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)などなど、500を超えるという彼の仕事は圧巻の一言だ。

 ジマーは単なる優秀な人気映画作曲家では終わらない。彼ならではの楽曲の数々は、映画音楽というジャンルそのものの在り方を大きく更新することとなった。その創造性と大胆な決断は、オーケストラと電子音、コーラスやパーカッションを、従来の方法論から逸脱して巧みに組み合わせることによって、音楽単体でも観客の感情を直接揺さぶる。そして、“主役級の存在”へと映画音楽の魅力を押し上げた点にこそ、ジマーの功績がある。

 もちろん本作では、彼の代表的な楽曲のなかから選りすぐった一部が演奏される。一つひとつの曲の旋律が響いた瞬間、映画の記憶が強烈に、そして鮮烈に呼び覚まされていくことだろう。だが、たとえ聴いたことがない楽曲があっても、退屈な思いをすることはないはずだ。なぜなら、楽曲そのものが圧倒的に魅力的だからである。この“強度”こそが、ハンス・ジマーという作曲家の影響力を、何より雄弁に物語っている。

 ジマー本人がステージの中心に立ち、ギターやキーボードを演奏しながら、ロックコンサートさながらの熱量で自身の代表曲を仲間たちとともに演奏するのが「Hans Zimmer Live」であるなら、本作で映し出されるコンサート「The World of Hans Zimmer」は、ジマーの監修のもとで、選ばれた楽曲たちを一つの“世界”として構築し直したものだ。指揮をとるのは長年のあいだ協力関係にあるギャヴィン・グリーナウェイだ。

 そんな「The World of Hans Zimmer」は、それ自体の芸術的な完成度が高く評価され、ドイツの権威あるクラシック音楽賞「オーパス・クラシク」において、年間最優秀賞ツアー賞を受賞している。これは、映画音楽という枠組みを超え、一つの音楽表現としてこのコンサートが認められたことを意味している。

 本作がドイツ主導で映画化された背景には、そうした評価の積み重ねがあるだろう。ジマーはドイツ生まれの作曲家であり、キャリアの出発点もヨーロッパにある。ハリウッドで成功を収めながらも、彼の音楽の根底にはヨーロッパ的な感性が流れ、それを根っこに彼の作風の枝はアジア、中東、アフリカなど、地域の垣根を超えていく。「The World of Hans Zimmer」は、そうした彼の作家性を改めて掘り下げていく。

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