『あんたが』拡大SPで新たな壁に直面? 勝男たちが乗り越えた“過去の自分”を総括

 大きな話題を呼んでいる火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)。特に第1話の竹内涼真演じる海老原勝男の強烈な言動が脳裏に焼き付いている方も多いのではないであろうか。今作の凄さはそんなあまりにも時代錯誤でインパクト抜群な第1話の勝男の振る舞いを踏まえた上で、それが一過性のバズりにとどまらず、初回以降も「TVer」「TBS FREE」の無料再生数で各話の歴代1位などの記録を次々と叩き出し、SNSでも最新回のたびにトレンドに入り続けているという点にあるといえる。

 そのように視聴者を惹き込み続ける作品の巧みなストーリーラインこそが今作の大きな特徴の1つなのだ。そして、そのポイントとは勝男が「過去の自分」を繰り返し克服していくという構造にあるといえる。

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』では、これまで海老原勝男が乗り越えるべき様々な「過去の自分」がいろいろなキャラクターの形を借りて登場している。そして、彼らと向き合うことで勝男はあの強烈な第1話までの自分を見つめ直し、新たな“優しさ”を獲得していくという物語となっており、そんな彼の懸命な姿が時にはコミカルに、時にはシリアスに描かれているのだ。

 最初に登場したその「過去の自分」とは第3話にてマッチングアプリで出会った女性、椿(中条あやみ)の立ち居振る舞いである。椿のために手料理を一生懸命に準備した勝男は、それに対する椿のかつての自分そのもののような言動に直面し、料理を作る人の真心を知り、元カノである鮎美(夏帆)への自分のこれまでの心のなさ省みることとなる。

 また、第5話における兄で長男・鷹広(塚本高史)の、男らしさにこだわり、他人に涙や弱さを見せられないというスタンスも同様に「過去の自分」であるといえる。そんな兄と向き合い、鷹広のための鶏天作りを通して勝男は1人では何もできない自分に気づき、人を頼ることの大切さを学んでいく。

 さらに、第7話では同じ家庭で育ってきたはずの次男・虎吉(深水元基)の柔軟な視点を通すことによって自然と環境に流されていた自分と対峙することとなった。父を反面教師にしてきたという次男の立場を知り、そんな虎吉一家の男でも女でも関係ないという価値観に触れることで、1人の人間として勝男は勝男であるということを改めて認識し自立を深めていく。

 このように、彼らと出会い、または再び向き合うことによって“化石男”であった勝男はさまざまな視点から「過去の自分」を見つめ直して変化しているのだ。またそれだけではなく、その改善に向かう勝男の姿勢が「過去の自分」たる彼らやその周りの人間たちにもポジティブな変化を与えていくというのが、勝男の恋路と共にある今作の大きな魅力なのである。

 不器用ながらも真っ直ぐな勝男に触れることで椿と勝男は互いの弱さを曝け合える関係となり、鷹広は見て見ぬ振りをしていた自身の家族の問題と向き合えるようになる。またそれは、一見誰よりも柔軟に思える虎吉にとっても同様である。古いダメな例として、碌に話し合わずに家族と距離をとってきた虎吉も、第7話では料理を振る舞う立場を知った勝男から出る味の感想や、素直に自身を反省できるようになっている勝男の変化に触れる。そして、そんな勝男のまた家族写真を撮ろうという提案に対して、虎吉もそれに快く答えるといったポジティブな変化が訪れているのだ。

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