杉咲花が代表作を更新し続ける理由 『おちょやん』から『冬のなんかさ、春のなんかね』へ

 2026年1月からはじまるドラマの情報が発表されているところだが、一部の人たちにとって最大の注目作は『冬のなんかさ、春のなんかね』(日本テレビ系)で間違いないだろう。主演は杉咲花であり、監督と脚本は今泉力哉が手がけるのだという。まさか地上波でこのふたりのタッグ作を観られる日がやってくるとは……。そう驚いているのは私だけではだろう。この作品に、そして何より主演の杉咲に期待できることとは何だろうか。

【杉咲花 主演】SPインタビュー/新水曜ドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」1月14日スタート

 この『冬のなんかさ、春のなんかね』は、20代後半のひとりの女性の心の機微を描く恋愛ドラマらしい。主人公は27歳の小説家・土田文菜(杉咲花)だ。これまでに2冊の小説を出版している彼女は、古着屋でアルバイトをしながら3冊目を執筆中。恋人がいるのだが、いつからか “きちんと人を好きになること”や“きちんと向き合うこと”を避けてしまうようになったらしい。どうやら過去の恋愛が影響しているようだ。いったいいつから、真っ直ぐに「好き」といえなくなったのか。文菜は恋人と真剣に向き合うべく、これまでの恋愛を振り返っていくことになる。

(左から)杉咲花、今泉力哉『冬のなんかさ、春のなんかね』©日本テレビ

 いまのところ世に出ている情報は、こういったあらすじと、杉咲と今泉監督によるコメントのみだ。今泉監督の脚本を読んだ際の印象について杉咲は、「言ってしまえば、とりたてて大きな事件が起きたり、登場人物が成長するようなこともあまりない物語」などと語っており、ふたりの発言からは、とても繊細な恋愛劇を描こうとしているのが分かる。文菜は現在の恋人と向き合うために“これまでの恋愛”を振り返っていくらしいが、いくつもの回想劇が繰り広げられていくことになるのか。となれば、過去の恋人たちが複数人、登場することになるのだろうか。一つひとつの恋愛(相手)ごとに文菜の立ち振る舞いは変わるはずだから、そこで変化していくであろう杉咲の演技表現を堪能できるのが楽しみだ。

『朽ちないサクラ』©2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

 ここ数年の杉咲は、自身の出演作のほとんどを代表作にしてみせている。2024年は『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)と『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)の2本のドラマに加え、『52ヘルツのクジラたち』と『朽ちないサクラ』の2本の映画に出演した。いずれの作品も、誰かにとっての“特別”になっているのではないだろうか。子役時代から俳優活動を続けている彼女には数多くの出演作と代表作があるわけだが、2020年の秋に放送が開始した朝ドラ『おちょやん』(NHK総合)で主演を務めて以降、杉咲はエンターテインメント界のみならず、私たちの日常においても特別な存在となった印象がある。

 それまでも彼女は若手俳優たちの中でも群を抜いた演技巧者として認知されていたが、「朝ドラ」以降、杉咲花という存在がどの作品でどんな役を演じるのか、非常に大きな意味を持つようになったと思う。2020年といえば、コロナ禍がやってきて、日常が一変してしまった時期だった。そこで多くの人々が、自身の「生活」を振り返ったはず。人生における「生活」というものの位置付けが変わったはず。そんな私たちの日常にエンタメの力で寄り添ってくれたのが、俳優・杉咲花だった。

『ミーツ・ザ・ワールド』©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会

 2024年の2月に放送された『スイッチインタビュー』(NHK Eテレ)での杉咲の言葉が大きな話題を呼んだ。それは、「生活が何より大事だなって思います。人生をかけて仕事をするのではなく、私は人生をかけて生活をして、それを仕事に落とし込みたい」というものだ。これに多くの人々が“気づき”を得ているようだった。彼女がこう考えるようになったのがいつ頃からなのかは分からないが、やはりコロナ禍は無関係ではないだろう。そしてこういう考えを持つ俳優だからこそ、出演する作品選び(=仕事選び)にはやはり本人の色が出る。公開中の主演映画『ミーツ・ザ・ワールド』などはまさに、そういった作品のひとつだろう。他者との交流の中で、ひとりの女性が新しい世界と出会っていく物語を描いている。

今泉力哉『冬のなんかさ、春のなんかね』©日本テレビ

 これらのことを踏まえて『冬のなんかさ、春のなんかね』について考えてみると、じつに杉咲らしい作品選びだといえるのではないか。しかもあの今泉監督とのタッグである。これまでのテレビドラマではやってこなかったこと/やれなかったこと、そして、約2時間の映画のパッケージではなく、1シーズンかけて放送するドラマだからこそ描くことのできる人間の心の機微に、光を当てようとしているのではないか。そこで私たちはまた、学びや気づきを得ることになるのだろう。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/12/post-2234212.html

■放送情報
『冬のなんかさ、春のなんかね』
日本テレビ系にて、2026年1月14日(水)スタート 毎週水曜22:00〜放送
出演:杉咲花
脚本:今泉力哉
監督:今泉力哉、山下敦弘、山田卓司
音楽:ゲイリー芦屋
プロデューサー:大倉寛子、藤森真実、角田道明、山内遊 
チーフプロデューサー:道坂忠久
制作協力:AX-ON、Lat-Lon
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/fuyunonankasa/
公式X(旧Twitter):https://x.com/fuyunonankasa
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