『べらぼう』平賀源内と凧を用いた構成が秀逸過ぎる 森下佳子が描く“絶望からの希望”
落ちた「凧」が再び空へ舞い上がる時
第44回の序盤、パッと青い空が映し出される場面がある。それを少しの間見つめていた蔦重は穏やかに微笑む。その姿はどこか、悪い夢から醒めたかのようにも、大きな空を悠々と飛んでいる「源内が作ったという相良凧」を見ているようにも見える。それから彼は平賀源内を探して歩き出すのである。「凧」で思い出すのは第35回のていの「まことにそうならいいですね。凧をあげたら国が治まるなんて、朗らかで」という言葉だ。
定信による「鸚鵡言」の一節を読んだことにより人々が「凧をあげたら国が治まる」と誤解しているらしいことを聞いたていが、蔦重に返した言葉である。ちなみに、同じく第35回は鳥山石燕(片岡鶴太郎)が死の間際に「源内に似たあやかし」を見て雷獣の絵を描いた回であり、続く第36回では病に伏した平秩東作(木村了)が「源内さんに言っとくよ」「こないだ来たのよ」と言い出したことに見舞いに来た皆が驚くという「源内の気配」を感じさせる回でもあった。しかし、第35回は、「凧が落ちていく」ショットで「蔦屋の運命の分かれ目」を表現して終わった。実際それからというもの、恋川春町(岡山天音)の死をはじめ様々な死と悲しみが描かれた。複数の作品に絶版命令が下り、蔦重は連行され、蔦屋は「身上半減」にもなった。歌麿(染谷将太)の恋心にどこまでも気づかない蔦重の鈍感さを通して、歌麿との関係性の変化が描かれた。つまり、第35回で一度凧は落ち、受難の日々の果てに、第44回で再び蔦重は、そこにあるかもしれない凧を見上げたということなのだ。それも「平賀源内が作ったという凧」を。これほどに希望に満ちた表現があるだろうか。
平賀源内という名の「凧」を探したその先に、本作最大の敵「傀儡好きの大名」こと一橋治済(生田斗真)への仇討ちが待っていた。誰袖の時も、本屋にしかできない手法で「仇討ち」をやってのけた蔦重が、仲間に加わらない訳がない。「源内軒の痛快なる敵討ち」が始まろうとしている。人々が見た「凧をあげたら国が治まる」という夢も、『べらぼう』においては、あながち夢ではないかもしれない。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK