『（LOVE SONG）』森崎ウィン×向井康二の“底抜けの明るさ” 同性愛のリアル描く訴求力
※以下ネタバレを含みます。
『（LOVE SONG）』のなかでとくに印象的だったのが、筒井真理子演じるソウタの母である。彼女はカイといるときのわが子に異変をおぼえ、カイをひき離そうとする。明言はされないもののソウタに同性愛的な雰囲気を感じとったのだろう、しかし彼女はそれを息子の性質として認めることはできず、その原因をカイに見出そうとする。その結果として彼女は宿泊していたカイを半ば強引に帰してしまう。時を経て大学生になったカイはソウタの母と再会する。雨降るなかをソウタとカイがひとつの傘に入り、その隣を大学の同期であるヒカリ（齊藤京子）が歩いていた。横並びに歩く3人に出くわしたソウタの母は、ソウタにヒカリの傘をもつよう言い、またもカイを息子からひき離そうとする。
ソウタの母は一貫してカイを原因と見なし、彼と距離を置かせ女の子と近づければわが子は「ふつう」の異性愛者になってくれるのではないかと思っているようである。カイが息子をおかしくしている、という彼女の思考回路はソウタの自立性を無視しているのはもちろんのこと、異性愛規範にもとづいたホモフォビックな態度であるといえるし、この映画の世界から異性愛規範も同性愛嫌悪の感情も消え去ってはいないこともわかる。BLジャンルには同性愛が異性愛と同様に認められたユートピア的世界を舞台とした作品もあるなか、『（LOVE SONG）』という大規模映画がリアリティのあるヘテロノーマティブでホモフォビックな言動を描いたことは、社会への訴求力をもつはずだ。カイという顔のある人物が傷つけられた経験を知り、その痛みを共有することは観客自身のふるまいを再考するきっかけになるかもしれない。
また主人公ふたりのセクシュアリティには劇中言及されないが、ソウタに想いを寄せるワタル（藤原大佑）には「男が好き」と明言する台詞がある。BLに頻出する「性別関係なくお前が好き」という台詞が見えなくしてしまう「同性が好き」な人間をも取りこぼさないような脚本には好感がもてる。コメディ寄りの作風であり基本的にはキュンキュンする映画ではあるが、社会やセクシュアリティについて考えられた側面もみえる。
本作はハッピーエンドではあるが、カイとソウタの母とのあいだにある確執は解決されていない。彼らが交際するうえで母を乗りこえる＝説得することは避けては通れないはずだ。しかし『（LOVE SONG）』は、その問題解決を保留し自分たちの感情を優先させるという結末を迎える。ようやく結ばれたふたりの後ろ姿は幸福感に包まれているものの、不安が翳っているのもまた見出さずにはいられない。
風間孝は『同性愛と異性愛』（岩波新書、2010年）のなかで、男性同性愛者が職場で困ることのひとつに「恋愛・結婚について問われる」ことを挙げている。カイはまだしも会社勤めのソウタはなにかと結婚や恋愛の話題をもちかけられるのではないか。乗り越えなくてはならないのは母だけではないはずだ。——余談だが『未成年〜未熟な俺たちは不器用に進行中〜』（2024年／読売テレビ系）というBLドラマには、結婚について「法律が変わったら」と答える場面がある。上手い回答ではあるが、こう答えなくてもいい日が一日も早く来ることを祈るばかりである。
カイとソウタもきっと母や社会と向き合っていかなくてはならない。一筋縄ではいかないことはわかっているとでも言うようなふたりの背中は、その覚悟を語っているようにもみえた——一旦母のことは保留して幸せを噛みしめるけれども、いずれ立ち向かわなければならない、と。ホモフォビックな母という問題を先延ばしにした彼らの物語は、エンドロールが流れようと終わらない。そうしてひらかれたカイとソウタの未来は、わたしたち観客の生きる現実とも直結している。
『（LOVE SONG）』はすべての人間が好きな人に「好き」といえる幸せを無邪気に信じている映画だ。その底抜けの明るさにきっと元気をもらえるだろう。
■公開情報
『（LOVE SONG）』
全国公開中
出演：森崎ウィン、向井康二（Snow Man）、ミーン・ピーラウィット・アッタチットサターポーン、藤原大祐、齊藤京子、ファースト・チャローンラット・ノープサムローン、ミュージック・プレーワー・スタムポン、逢見亮太、筒井真理子、及川光博
監督・脚本：チャンプ・ウィーラチット・トンジラー
脚本：吉野主、阿久根知昭
劇中曲プロデュース：The TOYS
主題歌：Omoinotake「Gravity」（Sony Music Labels）
制作プロダクション：KINEMA STUDIO
制作協力：h8 Studio、アークエンタテインメント
配給：KADOKAWA
©2025『（LOVE SONG）』製作委員会
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