『あんたが』“ミナト”青木柚は本当に“危ない男”? 否が応でも惹かれてしまう魅力を解剖

 火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)が面白すぎる。毎話観るたびに「よくできているなあ」と感嘆し、勝男の人間的成長と演じる竹内涼真の演技力に泣かされてしまうものだ。

※本稿には第5話までの内容が含まれています。

 第5話「とり天よ、空を飛べ!」では、勝男の兄・鷹広(塚本高史)が東京にやってきたことで勝男自身がかつての自分の立ち位置を振り返ると同時に、有害な男性性の中で苦しみ囚われる兄を解放させようと、手料理を振る舞い、人前で泣いて本音を心の中に閉じ込めず、表に出すことの大切さを訴えた。

 空港に向かう途中の車内では、部下・白崎(前原瑞樹)の彼女である青子(夏目透羽)が「いろんな人の立場を知る努力をしたり、想像したりしたい」と言っていたように、相手の立場を考え、想像することの重要さを説きながらも同時に相手に伝えることも必要であると間髪入れずに提示する。このドラマを観ているだけで、個人と社会についてであったり、思いやりやコミュニケーションとは何かであったりを学ぶことができる。

 さて、そんな本作で目が離せない存在がミナト(青木柚)である。登場時から何やら“危なそうな”匂いを漂わせていた彼に、鮎美(夏帆)はもちろん視聴者も翻弄されてきたはず。そしてついに第5話では鮎美と距離が縮まったように思えた次の瞬間、彼女に別れを切り出した。これから晩御飯を食べようと、お鍋をよそっている間に。せめて食べ終わって話してくれないものか、この後の鍋は一体どうなってしまったのか、2人で地獄のような空気の中食べたのか。筆者はそっちばかりが気になって仕方ない。

 毎話物議を醸し出すミナトの言動。なぜ我々はそこまで彼のことが気になってしまうのか。

どこかで見たことのあるレッドフラッグの総合体

 ミナトはすごい。何がすごいって、これまでの人生で見かけてきたレッドフラッグ(危険信号)を全方位に搭載しているタイプの“沼男”っぷりを登場時の短いスクリーンタイムで発揮していた。テキーラを気になっていた鮎美に対し声をかけるのは店員として普通のことだが、その後街で見かけて声をかけ、店に連れて行き、店を閉めた状態でほぼ初対面の彼女を試飲会に誘い、酔った鮎美に「かわいい」と言った。その後、間髪入れずにツーショットを撮っていたが、どうせその写真を共有するとかなんとかで連絡先を交換したのだろうと容易く想像できてしまうところも憎らしい。

 のちに勝男が店に乗り込んだ際、鮎美と同じようにテキーラに酔った様子を「かわいい」と言っていたことから、男女問わずにすぐそういうことを言うタイプであることが窺えた。彼はどちらかというと、男女問わず距離感が何かと近くて人たらしな人間なのだ。

 そんな彼がたまたま寂しいときに自分に会いたい、と連絡をくれたのだから鮎美はすぐに「好き!」となってしまうし、恋愛の相手が途切れないミナトもミナトでそのタイミングでフリーだし、鮎美のことが気になるのはおそらく確かなので「俺も!」なんて答えてしまう。これ自体、別に何も問題はないのではないか。恋愛なんて、気持ちが通じ合ってお互い納得いく形なら、出会ったその日に付き合ったっていい。

 ただ、同棲までのスピードや同棲前後の鮎美との付き合い方を考えると、ミナトは良くも悪くも“一緒に住むことの意味”を深く考えていなかった。それが結婚前提で2人以上の人数が住むのに妥当なサイズの家にこれまで勝男と住んでいた鮎美からの視点だったからこそ、彼の奔放さが浮き出てくる。いや、そうでなくてもミナトは奔放なのだ。

 勝男が“化石男”と称されたのに対し、ミナトは第4話で“大量消費型恋愛体質男子”とあだ名がつけられた。行きつけの飲み屋の常連に複数の元カノがいる。そして、誰とも長続きしない。別れる原因については後述するとして、彼がモテる理由についてまず目を向けたい。それはやはり、良くも悪くもあの距離の近さなのだ。実際、下北沢・三茶あたりの常連ばかりが集うようなお店で“ミナト系男子”はゴロゴロ転がっている。お互い、酔っている者同士、じゃれつくのにちょうど良いのだろう。

 しかしミナトの良いところは、なし崩しにだってできる関係性を「彼氏・彼女」という名を持ったものにして、ちゃんと相手と交際するところではないだろうか。とはいえ、彼女と飲んでいて彼女が帰るって言う時に一緒に帰らない(それどころか、ベタベタ体を触ってくる元カノがいる現場に居残る)、その思いやりのなさへの言い訳にはならない。

 彼自身、とにかく隙が多い。そして彼女と同棲する部屋に平然と元カノを連れてきたり、事前に伺いを立てず突然外に遊びに行ったりする程度には相手の気持ちに対する想像力が欠けている。彼にとっては「元カノとすら思っていない友人」だとしても、鮎美ならどう受け止めるかを考えられていないことが問題なのだ。それ同様、いやそれ以上に夜遅く家にまで押しかけ、勝手に「朝まで飲も〜」とお酒をビニールから出していた元カノの関田コウ(芋生悠)も非常識であることは自明だろう。筆者としては「ミナトが誰のものにもならないよう、ああやってバーでネガキャンしつつ一番近くにずっとひっついて新しい女性を牽制する」タイプの女性として非常に解像度が高いキャラクターだと感心している。

 ミナトをけちょんけちょんに言うことならいくらでもできる。しかし、第5話が訴えかけたメッセージを考えると、ミナトにただ“やばい男”とレッテルを貼って理解しようとしないのは、やや早計に思えてきたのだ。

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