井筒和幸が新政権発足当日に『火の華』を絶賛 「国家権力にここまで切り込んだ映画はない」

 10月31日よりユーロスペースほかにて公開される映画『火の華』の公開直前試写会イベントが10月22日にユーロライブで開催され、上映後に監督を務めた小島央大、エグゼクティブプロデューサーの成宏基(アニモプロデュース)、そして特別ゲストとして映画監督の井筒和幸が登壇した。

 実際に報道された自衛隊日報問題から着想を得た本作は、元自衛官の壮絶な体験とその後の宿命を克明に描いたオリジナルストーリー。

 2016年、PKO(国連平和維持活動)のため南スーダンに派遣された自衛官の島田東介。ある日、部隊が現地傭兵との銃撃戦に巻き込まれる。同期で親友の古川は凶弾に倒れ、島田はやむなく少年兵を射殺。この前代未聞の“戦闘”は、政府によって隠蔽されてしまう。それから2年後、新潟。悪夢に悩まされる島田は、危険な武器ビジネスに加わりながら、花火工場の仕事に就く。親方の藤井与一や仲間の職人たちに支えられ、心に負った傷を少しずつ癒していく島田。花火師の道に一筋の光を見出した矢先、島田に過去の闇が迫る。 

 小島監督の前作『JOINT』からその才能に着目していたという井筒は、開口一番「ようやった!」と絶賛。特に、主人公の島田が PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する打ち上げ花火のリアリティを取り上げ、「あれ、本物の花火でしょ? CGではなく、実写でやるからこその迫力があった。花火の打ち上がるタイミングと人物の動きを合わせるのもさぞかし難しかっただろうに。とにかく素晴らしかったですよ」と話す。小島監督によると、このシーンがクランクインだったようで、「新潟・小千谷の花火大会で撮影したんですが、打ち上げ音が大きすぎて役者の声が届かず、全員叫びながら撮影していました」と撮影秘話を吐露。

 井筒は、本作が監督オリジナルの企画であり、独立プロによる製作であることにも触れ、「製作委員会のような企業の集合体がつくる、みんな責任逃れな映画が多い中で、『火の華』は思いの分かる連中だけでつくった、腹を括った映画ですよ」と話す。続けて「劇中には国に恨みを持つ隊長や、中国マフィアも出てきて……だいぶ“病んどる”映画ですよ、まるで『タクシードライバー』やぞ、と。久しぶりに画面に食いついて観てました」と語った。

 PTSDを抱えた主人公を癒し、救いとなるのが“花火”の存在。小島監督は「いろいろ取材をしていく中で、一概には言えませんが、PTSDの症状の一つとして、“外に吐き出したい”という衝動があります。この映画では、間違った吐き方――例えば最悪のケースとしてテロリストになる道ではなく、花火という救いによって苦しみを浄化させられるという希望を描きたかった」と説明。過去にフィルムで花火を撮ったことがあるという井筒監督は「デジタルだとペタッと見えてしまうところを、フィルムだと奥行きが出て、ちゃんと“球”に見える。花火って生き物なんですよね」と振り返る。

 それに対し、「僕も花火をいかに“生きたもの”にするかを追求したかった。デジタルでもちゃんと奥行きを出せるようにこだわりました」と語る小島監督は、カラリストと共に2カ月間スタジオに缶詰となり、花火の持つ本来の美しさや立体感を表現するために特殊なアプローチした日々を述懐。「35mmフィルムで撮影された花火の写真を参考にし、光の境い目や境界が“生き物みたいにじわじわと動いている”感覚を表現しました。そして、デジタル撮影やスマートフォンで撮った花火の映像では失われがちな、光の細かい振動感をどうやってスクリーンに出せるかも研究しました」と語った。

 続けて「花火は美しいもの。でも美しいと思うだけでなく、“なぜ美しいのか?”に踏み込みたかった」と明かす小島監督。「そもそも花火の起源は、江戸時代、大砲を横に向けて撃ち、殺人のために火薬を使うのではなく、戰がなくなったことで火薬の使い所として上に打ち上げて遊んでいたところから始まったといいます。人々がそうやって遊んでいた背景には、戦がなく“平和があったから”こそですよね。この映画でも、“戦争がないから花火があげられるのだ”ということを平和の象徴として強調したいと思っていました」と本作に込めた思いを語った。

 さらに「現代は価値観が多様化しすぎていて、和解し得ない時代に突入していると思う。でも花火は、人種やイデオロギー、左翼や右翼にかかわらず、誰もがみんな、空を見上げて感動できるもの。そこで僕たちは“もともと平和について話をしていたはずだよね”という原点に立ち返れる。議論の場や対話のきっかけを作りたいという願いを込めました」と語気を強めた。奇しくも新政権が発足したこの日。井筒は「日本の歴史を振り返っても、80年間、誰も反省していないんだよ、この国は」と警鐘を鳴らす。自衛隊のPKO活動やそれに伴うPTSDの問題、平和への願いや憲法改正への問題提起などが込められた本作について「国家権力にここまで切り込んだ映画はない。国そのものに訴えかける映画だと思いますよ」と締めくくり、最後に「今の国会議員たちにも本作を観せて、自衛隊についてどう考えてんだ?と聞きたいね」という問いを突きつけた。

■公開情報
『火の華』
10月31日(金)ユーロスペースほか全国順次公開
出演:山本一賢、柳ゆり菜、松角洋平、田中一平、原雄次郎、新岡潤、キム・チャンバ、ゆかわたかし、今村謙斗、山崎潤、遠藤祐美、YUTA KOGA、ダンカン、伊武雅刀
監督・編集・音楽:小島央大
企画・脚本:小島央大、山本一賢
主題歌:大貫妙子&坂本龍一「Flower」(commmons/Avex Music Creative Inc.)
エグゼクティブプロデューサー:成宏基
制作プロダクション:雷・音、OUD Pro.
製作・配給:アニモプロデュース
2024年/日本/シネマスコープ/5.1ch/カラー/124分
©animoproduce Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:hinohana-movie.com
公式X(旧Twitter):@hinohana_movie

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