横浜流星×染谷将太、『べらぼう』黄金コンビが再び “欲”が鍵となった歌麿の傑作誕生秘話
歌麿は蔦重を遠ざけようとしながらも、結局はその「欲」に抗えない。「いっちゃん好きな絵師だ」という蔦重の一言は、これ以上なく幸せでありながら、ある種残酷な言葉でもある。求めていた「一番」になれた。だが、それは一人の男としてではなく、絵師としてだということ。それでも、そんな言葉を聞いてしまったら「この人のために描きたい」「この人の期待を超えたい」と、筆を持つ手が疼くのを止められない。
ついに始まった、ふたりの新たな作品づくり。蔦重の中で「これだ」という確信が持てるまで、何度も描き直しを命じる。「歌麿先生ならできる」などと「先生」扱いしながらも、油断するとすぐに蔦重は気軽にスキンシップを取ろうとする。それが、歌麿を苛立たせるのだ。
歌麿としては、絵師と本屋という距離感を保とうと必死なところを、蔦重は何もわかってくれない。まだそこをクールにいなすことができないところも、歌麿の人間らしいところ。今度こそ、この「欲」に振り回されてはならないのだ。蔦重が「一番の絵師」と言ってくれる幸せを享受し続けるために。
そんな歌麿の葛藤を、蔦重はどこまでわかってるのだろうか。かつては色恋に鈍感だった彼。だが今は、少し違うようにも見える。瑣吉の言葉を聞いたときに浮かべた、あのなんとも読めない表情に、確実に以前の蔦重とは違う雰囲気を感じる。そうした繊細な心の機微を表現しながら蔦重の人間的成長を感じるのも、俳優・横浜流星の妙技であり、『べらぼう』の奥深さだ。
歌麿だけでなく、蔦重もまた独りよがりに思われた時期を経て、自らの「欲」と折り合いをつけられるようになってきたのかもしれない。面白いものを生み出し、世の中を明るく照らしたい。その大いなる「欲」に溺れることなく、ともに夢を見る仲間の「欲」をも丸ごと抱きかかえる。
そこには「まこと良い流れではあるが……」と、心のどこかで華やかな作品を求める定信の秘めたる「欲」も含まれていたかもしれない。そうして当時を生きた人々の様々な「欲」が、蔦重の心を、歌麿の手を動かして生まれた「美人大首絵」。その背景を知ると、これまで以上に傑作がより輝いて見える。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK