『オッドタクシー』ファンが気になる『ホウセンカ』の謎 “大逆転”の愛の物語とは

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は劇場版『チェンソーマン レゼ篇』に毎週通っている徳田が『ホウセンカ』をプッシュします。

『ホウセンカ』と『オッドタクシー』

 本作では『オッドタクシー』で知られる木下麦が監督、此元和津也が脚本を務めている。同作のサスペンスが実現するうえでその物語構成があまりに巧みだったことは、多くの視聴者が知る通りだ。

 たとえば冒頭、主人公・小戸川の自室の押し入れ奥に何者かが潜んでいることが示唆される。この謎が前景化したことで、本作の根本に関わる別の謎(=なぜ誰もが動物の姿をしているのか)は不可視化されていた。そして小戸川が巻き込まれた事件と、小戸川自身が抱えていたある問題が解決するとともにそれは姿を現す。小戸川にとってそれは、ある種の救済でもあった。

 このように複数の問いを同時進行させ、終幕にかけて一気に収束がもたらされる物語構成の妙によって、『オッドタクシー』はアニメファン内外の耳目を集めた。

 『ホウセンカ』においてもそうしたストーリーテリングは期待されるだろう。「男が人生を懸けた“大逆転”とは何か」。あらすじ時点では、この問いが前景化している。

 この「男」というのは無期懲役囚の老人・阿久津。「しがないヤクザ」だった彼はかつて、とある事情から組の金庫にあった3億円を奪おうとする。現在服役中ということは、それは失敗に終わったのだろうか。そして「大逆転」とは何を意味するのか。無期懲役をくらっている73歳の男に、まだ何かが残されているというのか。

 鑑賞前に考えられることは、とりあえずこのようなことだ。

 もう一つ不思議なことに、「ホウセンカ」が登場人物として現れる。「CV.ピエール瀧」とあるように、この花は言葉を発する。比較的リアリズムに準じた設定が貫かれているなかで、唯一みられるファンタジー要素だ。

 もちろんアニメにおいて花がしゃべることは何も不思議ではない。しかし『オッドタクシー』ではこうしたアニメの利点=別に見過ごしても構わないファンタジー要素が前面化していること(誰もが動物の姿をしている)を逆手に取って、それをサスペンスに応用した。いわば視覚的叙述トリックとでもいうような演出で、鮮やかないわゆる伏線回収を実現したのだった。こうした「自然主義的リアリズム」と「まんが・アニメ的リアリズム」の撹乱は、『オッドタクシー』の特徴の一つだろう。

 それでは『ホウセンカ』のホウセンカはどんなキャラなのか。「そこにいるのか。本当はいないのか。喋るホウセンカという不思議なキャラクターの声を担当させていただきました」とピエール瀧は語っている(※)。

「愛の物語」でもある『ホウセンカ』

 『オッドタクシー』の座組というとこうしたミステリ要素ばかり期待してしまうが、同時にこのアニメは「ある男の愛の物語」であるとも謳われている。メインビジュアルには阿久津夫婦が並ぶ。著名人コメントにも、感傷的な内容が存外に多い。

 ホウセンカの花言葉(「私に触れないで」「心を開く」)が持つ両義、花火が象徴する刹那性——鑑賞前に与えられているこれらの前提条件が、ストーリーラインと映画の体験性を複数化するだろう。

 『オッドタクシー』のようなどんでん返しのミステリを期待していたら、不意に泣かされてしまう。そういう大逆転もあるかもしれない。

参照
※ https://anime-housenka.com/

■公開情報
『ホウセンカ』
全国公開中
キャスト:小林薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮、中山功太、ピエール瀧
監督・キャラクターデザイン:木下麦
原作・脚本:此元和津也
企画・制作:CLAP
音楽:cero/髙城晶平、荒内佑、橋本翼
配給:ポニーキャニオン
©此元和津也/ホウセンカ製作委員会
公式サイト:https://anime-housenka.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/anime_housenka
公式Instagram:https://www.instagram.com/anime_housenka/

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