『ばけばけ』は“攻めすぎた”朝ドラ? 髙石あかりの“瞳の変化”を見るだけでも価値がある
タイトルバックの文字が小さいとか、制作側が例えば女性の地位に関する認識を当時の価値観をそのままにと言いながら、セリフは現代語過ぎるのはいかがなものかとか、岡部たかしが上級武士には見えないし、価値観の突然の変化に立ち尽くしているだけと思ったらやっぱり子どもを働かせるクズ父だったとか、他者が亡くなったのを「良かった」という母子はいかがなものかとかと、いろいろ気になる点が挙がる。でも常識の枠にハマらないものだってあっていいわけで、モヤモヤしながらも生きていくしかない。この視点は極めて現代的ではあるものの、なかなか観る人を選ぶドラマでもある。
筆者がこのドラマを好ましく思うのは、一部で批判が出ていた土左衛門を見て「良かった」と思わず言ってしまう場面である。脚本を書いているふじきみつ彦の師匠筋に当たる劇作家・別役実の『別役実の混沌・コント』のあとがきにこんなものがある。書くコントには死が多すぎると指摘された別役は、「理屈でなく『笑いを突き詰めた向こうに死がある』と、私は考えている。『笑いの最終目的は死を笑うことである』とも考えている」と書いている。哲学的な話である。ふじきがこの発言についてどう考えているかは知らないが、死や貧しさを笑うことは人間を奥深く探求することだと筆者は考える。そして本来、朝ドラのように不特定多数の人たちが観る番組にはこの探求はおそらく向いていない。攻めすぎた挑戦だと思う。それだけ朝ドラがかつてないほど変革してきていることに興味を感じる。
トキは落ち込んだとき、怪談を聞いて気を紛らわせる。人が取り憑かれたり呪い殺されたりする物語。
髙石あかりのキラキラと光の反射率の大きそうな瞳が死んだような瞳になるシャッターされたような瞬間、人間の幸福に瞳が輝くときと一切の光を閉ざしたときの高低差がある髙石は『THE GHOST WRITER’S WIFE』にふさわしい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK